そのふたこぶらくだは言いました。
よし、ちょっとやすんだことだしそろそろいこうか。
あれ?
君、背中の荷物はどうしたんだい?
ほら、
冷えたバタや、
飲みかけの炭酸水なんかが入った
クリーム色の布の包みがあったろう。
赤い刺繍がしてあるやつだよ。
え?
なくなった?
どこかへ置いてきてしまったかもしれないって、
おい、
そんなあっさり言うことじゃないだろう。
どうするんだよ、あれがないと困るだろう。
大事なものじゃないか。
おい
おい
ちょっと待てって
おい、
待てったら。
ひとこぶらくだは、
さくっさくっと
静かに砂の上を歩き、
そしてほんとうにあっというまに、
遠く遠くにいってしまいました。
途方にくれたふたこぶらくだは、
その場で考えこんでいましたが、
気がつくと、今度は自分のこぶにくくりつけてあった荷物がありません。
あれ、あれ、どこにいってしまったんだ。
おれの荷物がないぞ。
おれの荷物…おれの荷物…
なくなってしまったなんて、そんなはずはない。
あいつの荷物がなくなって、
おれの荷物までなくなるなんてそんなばかな。
…
おれの荷物
…
おれの荷物は一体なんだったっけ?
確か、革張りのトランクを前のこぶにくくってあったはずなんだ。
でも、中身がなんだったか思い出せない。
ひとこぶらくだの荷物は思い出せるのに、
どうしておれのは思い出せないんだろう。
毛皮のコートだったかな?
それとも、ラム酒の入ったアイスクリームだったかな?
それとも、たんねんに磨かれたナイフのセットだったような気もするんだけど…
だめだ、思い出せない。
ひとこぶらくだに聞いてみよう。
おおおおい
おおおおおーい
あれあれ、もう本当にみえなくなってしまうよ。
おおい、待ってくれ。
ふたこぶらくだは、いそいで歩き始めました。
荷物がなくなって体が軽いので、ぐんぐん歩いていきます。
ふただび歩き始めたとき、
あたりはもう一面の花畑で、
赤いポピーや白のスノードロップ、紫のクレマチスが、
チラチラと風に揺られ、楽しそうにあふれかえっているのでした。

部屋を夏用にしてみたらできた影絵を、
ぼーっとみていて浮かんできたらくだの話。
