先日,女にフラれたてホヤホヤの奴と酒を飲んだ.やはり『吐く為に酒を浴びる男』を肴に酒を飲むのは気分が良い.理由と過失に泣き,相手の判断を罵倒し,復縁を懇願し,乗除不安定な現状を自嘲する.という恋愛慣れしていない男の弱さ四大挙動が惜しげも無く繰り出される.周りの客の視線が予想以上に冷たくないのは,恐らくソイツが玉木宏に似たイケメン野郎だからだろう.店の半数を占める女性の視線は騒がしい酔いどれ男に対する邪険なそれではなく,母性と色艶を含んだ微笑ましい眼差しだ.

 

 

 

自称“硬派”の玉木は単純に“純情”なだけだった.彼女の事は大切にする男だった.別れた理由には触れないが早い話で擦れ違いだ.『〇〇がイヤだから別れたい』という悩みが昇華し『別れる』と決断したら,別れる理由が『別れたいから』になる.その次元に達すると,かつては存在していた『別れたいと思うに至った理由』の改善案や更に条件の良い代案を約束したとしても,『別れたいから』という理由は崩せない.それを理解していない奴が大抵この様に打ちのめされる.自分はお前の為に変われる,だからお前も変わってくれよ,と望みに縋る.

 

 

 

彼女が既に変わってしまった事を否定している限り,この男は吐き続けるだろう.恋愛は二人の意思が疎通する事で開始されるが,別れは一方の意思で簡単に成立する事を正面から受け入れない限り,“硬派”を自称する玉木は恋愛に躊躇するだろう.

 

 

 

 

女の視線を独占する男が口から胃酸臭を発しながら咽び無く姿は小気味良いが,残念ながら俺は友達なんだ.刻み込むべき傷,受けて自身で直すべき傷,そして負うべきでない傷を見極めて立ち直らせてやろう.

 

 

 

 

そう思った次の瞬間,斜め向いのテーブル席の男と目が合った.一瞬だったが不満の色を強く携えている事が見て取れた.視点を移すとその理由は明白で,彼の向かいに座っている目鼻立ちの整い黒髪を結った女が玉木の横顔に注意を払っているからだった.

 

 

 

 

 

-OK.

 

 

 

 



玉木,悪いがお前を立ち直らせるのはもう少しだけ後だ.アボガドサラダを利用して俺はヤツの顔に細工をした.

 

 

 

暫くして彼女は具合が悪そうに首を振り,その後こちらに気を配る様子も無くなった.その肩越しに男が軽く会釈したような気がした.玉木は・・・顔がブラジル代表ユニフォームみたいな色になっていた.