仕事のことなんだけどね。

なんかね、うまくいかないんだ。

自分のしたこととか言ったことのすべてが駄目な気がすることがある。

医者ってなんて無力なんだと思うことがよくあるよ。

仕事をしていると、1日に何回も「なんてうまくいかないんだ」って思う。

「治る」って思って病院に来ている人が多い。

でも治らない病気が山程ある。

治らない。

そうでなくても、人は必ず、死ぬ。

病気のために想定していたよりもかなり早く死んでしまうこともあるだろう。

治療の目的はなんだろう。

それが治らない病気であるならば、治療する目的は死の瞬間まで自分が納得がいくように生きるためだ。

私はそう思ってる。でも、人によってはそうじゃない。

治療をすることで症状がよくなれば、自分のやりたいと思っていることができる可能性が広がる。

治療をすることで命の長さが期待していたよりも長くなって、自分の納得のいく生き方がより長くできるなら、なおいいかもしれない。

なにを目標に治療をするかって、人によって目標も違うだろう。

でも、どれだけ望んでもどれだけ頑張っても「治す」ことができない。

どんな治療が正しくて、どんな方法が間違っているのか。

わからない。

しかし選ばなければならない。

体が弱っていく患者さんに対して、治療には耐えられないということで治療を中止することは正しいのか、正しくないのか。

数ヶ月で亡くなるであろう患者さんに、「あなたの命はあと数ヶ月です」と伝えることが正しいのか、正しくないのか。

保険適応外の薬を使うことが正しいのか、正しくないのか。

死を目の前にする患者さんに対してさらなる検査や治療をしようとすることは正しいのか、正しくないのか。

治らない病気に対して治ると言うことや、あと数ヶ月の予後の人に対して10年後の希望を持たせることが正しいのか、正しくないのか。

患者さんと話し合い、出来る限り希望に添いたいといつも思っている。

でも、難しい。

難しいことのほうが多い。

うまくいかないんだ。

患者さんが「治してほしい」って思っている病気、「治してほしい」って思っている症状、なにもできないこともあるんだ。

75点くらいの治療しかできないこともある。30点くらいが精一杯のことすらある。

それでもなお、患者さんの期待に添いたいと思う。

救いたいと思う。

進歩しているようでもなお、武器が少ない医療の現状。

それでもなお、死の瞬間にいい人生だったと思えるように手助けしたいと思う。

自分がそうでありたいからだ。

「医者は神様ではない」

何年も前に先輩に言われた。

神様ではないから、病気を治すことはできない。

そのとおりだ。

悔しいけれど、そのとおりなのだ。

病気を治すことができるとすれば、それは患者さん自身だ。

私たちにできることは手助けだけだ。

患者さんが治ろうとするのを妨げてはいけない。

自分に今できることはなんだろう。

常に考えている。

患者さんにとって一番大切なことはなんだろう。

何を優先すべきか。

それをいつも考えている。