「まさか、こんなことになろうとは…」
額に汗を滲ませ、古びた工具箱を握りしめる。
周囲を見渡せば、見慣れたはずのオフィスが、どこか懐かしいような、そしてどこか違うような、不思議な光景に変わっていた。
時計を見ると、表示されている西暦が信じられない。
なんと、自分がこの会社を辞めた数年前の数字を示している。
「タイムスリップ…?」
現実感がなく、一瞬我に返れなかった。
しかし、手の感触や、鼻をくすぐる埃の匂いは紛れもなく現実のものだ。
そう、彼は、かつて勤めていた会社のエアコン修理の仕事に、タイムスリップしてしまったのだ。
この会社では、古いタイプのエアコンが多く、修理は至難の業だった。
特に、配線が複雑に入り組んだ天井裏での作業は、彼のトラウマとも言えるものだった。
「なんで、またこんなところに…」
彼は、当時の上司や同僚たちの顔が浮かび、複雑な気持ちになった。
特に、あの厳しかった課長。彼の厳しい指導のおかげで、エアコン修理の技術は身についたが、同時に、多くのストレスも抱えていた。
「よし、逃げるか…」
そう思った瞬間、彼の目の前に、故障中のエアコンが置かれていた。
修理依頼書には、彼の名前が書かれている。逃げるわけにはいかない。
深呼吸をして、彼は工具箱を開けた。
懐かしい工具たちが、彼の目に飛び込んでくる。
一つ一つの工具に、過去の記憶が蘇ってくる。
「よし、やるか…」
彼は、当時のことを思い出しながら、作業を始めた。
配線をたどり、故障箇所を探し、新しい部品と交換していく。
しかし、古い配線は絡まり合い、なかなか思うように進まない。
「やっぱり、昔と変わってないな…」
彼は、当時の苦労を思い出して、苦笑した。
それでも、一つ一つの作業を丁寧にこなしていく。
ようやく、修理が完了した。試運転をして、問題がないことを確認し、彼は安堵の息をついた。
「よし、これで一件落着か…」
彼は、達成感とともに、一抹の寂しさを感じた。
この仕事は、決して好きだったわけではない。
しかし、今、こうして再びこの仕事をしていることで、彼は過去の自分と向き合うことができている気がした。
彼は、このタイムスリップを、自分にとっての試練だと考えることにした。
そして、この経験を活かして、未来の自分へと繋げていこうと決意した。
再び、時計を見ると、表示されている西暦は変わっていなかった。
彼は、この時間の中で、何を学び、何を経験するのか。
それは、まだ分からない。
しかし、彼は、このタイムスリップを無駄にはしないだろう。