エアコンは暴力的だ。
最初は何てことない風がそよいでいるかと思いきや、冷たい風が一気に吹き出してきた。心から冷えるような、感情を持たない温度が駆け巡る。
それでも蒸し暑い火照った身体には、心地いい瞬間が訪れる。だがそれも束の間、だんだんと感情を持たない冷たい風は自分の中の異物として感じて、拒否し始める。
痛い。
突き刺すような痛みが首筋に当たり続ける。
直人は思わず、リモコンでエアコンの風向きを変えた。
すると今まで暴力的だった冷えた風が、どこへ行ったわからないくらいになり、先ほどまで痛かった首筋が今度はポカポカしてモヤモヤし始めた。
「どないでっか?」
この部屋には誰もいない。
話しかけてくるのはエアコンだ。
「うん、扇風機もあるから、これでいいよ。あとは部屋を冷やしてよ」
「でも、あんさん、もうすぐ出ていきなはるんやろ?」
「あと、10分かな?」
「電気代をいつも気にしてはるのに、いいんでっか?」
「いいよ、なんか今日朝に「環境にはお金をかけないと」って思ったんだよ」
「また、今までとは違う主義になりましたなぁ」
「そんな事はないよ。まぁ、確かにここ最近ではあるけど、何か行動するには環境が一番大事だって、気づいたんだよ」
「自分の意思の方が大事ではないんですかい?」
「もちろん意志が一番大事だけど、思ったことをすぐ行動できる環境の方もよほど大事だって事に気づいたんだよ。心や頭の中はコロコロ変わっていくからね。でも行動できるかどうかは環境によってできる場合とできない場合があるでしょ。何かをしたいならできる環境にしないとね」
「それとワシになんか関係があるんでっか?」
「家の中でも寒いとこたつから抜け出せなくなるように、湿気が多くて蒸し暑いと気持ちが沈んでいくように、環境でも空気は大事だと思うんだよ。だから行動できる環境を整えているんだから、気温に邪魔されないようにしないとね」
「そういうもんでっか。まあワシは喜んで頂けるなら嬉しい限りですわ」