「よくぞ、参られた、勇者よ」

 

目の前の偉そうなおっさんが

椅子に踏ん反り返りながらそういうと

おっさんの横に立っている

これまたおっさんが

布袋を俺に渡してきた。

 

どうやら中にはお金が入っているようだ。

 

「そなたの活躍を期待している。見事魔王バランスを倒し、我が娘を助け出してくれ」

 

そうか、このおっさんの娘が誘拐されたから、

誘拐犯を殺して連れて

帰ってくれと言っているのか。

 

うん?

でもそんな事したら

その娘が殺されるんじゃないのか?

 

娘を誘拐しているのに

相手に何の要求もしない魔王って

一体何を考えているんだ?

 

娘は魔王にとって重要な役割でもあるのか?

 

「では、出発するのだ、勇者よ」

 

俺は桂木ゆうた。

 

最後の最後まで

俺の名前を呼ぶ事はなかった。

 

名前知らんやつに

誘拐犯をやっつけて娘を取り戻せ、って

どういう事だ?

 

俺は意見を言いたかったが

そんな事ができるはずもなく、

体が勝手に後ろを向いて歩き出した。

 

通路の脇に立っている兵士は

それぞれ管楽器を持って

勇敢な音楽をかき鳴らしている。

 

どうやら俺を見送っているようだ。

 

俺は大きな部屋の扉の前まで行くと

その扉は兵士によって開かれた。

 

そして俺はまっすぐに

この大きな建物を出た。

 

どうやらここは西洋の城らしい。

 

さっきのは

なんとなくわかっていたが

王様だったのだろう。

 

俺には言動権がない。

行動権もない。

 

ただひたすらに誰かに操られている。

 

俺はまっすぐ城下町を出ようと歩いていた。

しかし途中で

すれ違う人々に俺は話かけていた。

 

「何かありますか?」

 

知らない人間にこんな風に声をかけられて

誰が一体返事するというのだ。

 

しかし声をかけられた人も

「ここはアルハントラの城下町だよ」

とか

「武器屋ならそこを曲がったところにあるよ。装備したければ、ステータスから選ばないといけないから注意してね」

とか返事をしている。

 

会話している最中は笑顔なのに、

何かを言うだけいうと

無表情に戻って通り過ぎる。

 

こいつら全員サイコパスか

人格破綻者じゃねぇのか?

 

俺はそいつが言った通りに

武器屋に入った。

 

「っらっしゃい」

 

いかにも武器屋の親父、

とも言いたげな髭や風貌。

 

いかつい姿は元傭兵か冒険者、

といったところか。

 

「買いたいのか、売りたいのか?」

 

俺は冒険初心者のようなので

武器を購入したようだ。

 

王様からもらった金は

どうやら銅貨で50枚あるらしい。

 

武器はヒノキの棒で

30銅貨だった。

 

ひのきの棒はいわゆる木刀だ。

しかもひのきといいながら

材質は樫の木でできている。

 

どうやら名前の響きが良かったようで

その名前になったそうだ。

 

兵士の練習用に使われる木刀だが

硬くて丈夫なので

簡単に振り回すものではない。

 

しかしこれで冒険に出るのは

少し無理がある。

 

王様は娘を助ける勇者に

こんな木刀1つしか

買えないようなお金だけで

送り出すのだから

本当の人格破綻者は

王様なのかもしれない。

 

俺はそれを購入すると城下町を出た。

 

とは言っても俺が出たいわけではない。

何度も言うが体が勝手に動くのだ。

 

城下町を出ると門は閉じられる。

門は夕方には閉じられるので

それまでに戻らないと

野宿をする羽目になる。

 

俺は外に出るといきなり森に入った。

 

おいおい、森は危険だぞ。

木刀しか持ってない俺が

行くのはバカ過ぎる。

 

そう思っていたら案の定

いきなり後ろから殴られた。

 

いきなりの不意打ちだったので

俺はもちろん豪快に転んだ。

 

しかも背中が痛すぎて

息も起き上がる事もできない。

 

相手を見るとゴブリンだった。

ゴブリンは木で

作った棍棒を持っている。

 

こんなもので殴られたら死ぬよ。

頭を殴られていたら

一発だったんじゃねえか?

 

背中を上から殴られたところを察するに

頭を狙ったつもりが

背中に当たったんだろう。

 

もちろん背中がヒリヒリしているし

鈍器で殴られた事で息ができないし

立ち上がる事もできない。

 

苦しいし冷や汗が出るし

痛くて動けない。

 

ゴブリンを見るのが

やっとの状態だったのだが

最悪な事にゴブリンは3体出てきた。

 

どうやら狩りをしている最中で

俺はそのターゲットとして

狙われたようだ。

 

ゴブリンは人喰いだ。

俺は食料にされるようだ。

 

ゴブリンは待つ様子もなく

手加減をする様子もなく

3人で俺の方に走ってきて

棍棒を頭から振り下ろした。