(はじめてこのブログをご覧になる方は、第1話
よりお読みください。)
第61話 過去の相談
完璧なプレゼン・・・。
(あれからほんの1年しか経ってない。
まさかあの水島志保子が・・・な。)
志保子の変貌ぶりにカウンセリングを担当
した張本人が驚いた。
プレゼンの夜、しばしの間、浅井は
過去の記憶をたどっていった。
2007年秋。
「仕事、辞めたいなと思って・・・」
シンプルな白いシャツに紺のタイトスカート、
ほっそりしたスタイルの彼女が、消え入り
そうな声で言った。
「何か職場にとけこめなくて。自分の居場所がないみたいで・・・。」
彼女は少し視線を下げたまま話を続けた。
時計は、午後6時を指している。ちょっと前
まではこの時間でも明るかったが、秋も
深まるこの名古屋の街では、街灯の光が
すでに灯り、冷たい空気が冬を予感させ
ていた。
仕事帰りの人の波も、心なしか足早だ。
僕のオフィスは、そんな街の景色が
見下ろせるビルの一角にある。
「なぜだかわからないんです。浮いてるっていうか、かみ合わないっていうか・・・。」
当時志保子は24才だった。
印象は、どこにでもいる普通の女性だ。
仕事帰りということもあるのかも
しれないが、自己主張している
ところがまったくない。
大人しい顔立ちに薄い化粧、後ろで
束ねた黒い髪。まるで目立つことを
恐れてでもいるかのようだ。
力なくイスに座った彼女は、膝の上で
両手をきゅっと握りしめ、紅茶から
立ち上る湯気を見つめている。
その姿は、彼女がひどく思いつめていることをあらわしていた。
「昨日も上司に言われたんです。
『ダメだなぁ』って。ミスも多いし、
向いてないし、職場の人たちとも
未だに馴染めない。
そもそも、私なんて必要ないんじゃないかなって。」
そう力なく笑う彼女の目は、今にも泣き出しそうだった。
「私、なんのために生きてるんだろうって。存在する価値があるのかなって・・・。」
続く・・・・・・