優しい色合いの少女の画。
そしてその絵を描いていたのが、まさにその絵の中から飛び出してきたような女性だった。
ふわりとしたブラウス、笑顔、そしてちょっと首をかしげる仕草。
「なんということでしょう」──気づけば彼女の絵を何枚も抱え、ホテルに持ち帰っていたのだった。
サウサリトは、当時から町全体が禁煙。
レストランも、バーも、ホテルも、ニコチンさんにはお引き取り願うという、なかなかの徹底ぶり。
だけど、例のジャズバーには裏パティオがあるのだ。
そう、そこが“合法ニコチン共和国”。
夜になると、地元の人も旅人も、そこに集って、酒と煙と語らいを交わす。
その夜も、パティオにふらりと立ち寄ったら、
なんと昼間の絵の中の彼女が、グラス片手に笑っているではないか。
笑顔を交わし、会話がはずみ、気がつけば明日のディナーの約束。
行き先は……まさかの日本寿司レストラン「すしらん」(笑)。
翌日、煙の向こうから現れた男
寿司の余韻に包まれて迎えた翌日。
前から気になっていた、ちょっと怪しげなお土産屋に足を踏み入れた。
店内は絵、絵、絵、人形、絵、小物、また絵──まるで視界がカオスのパッチワーク。
その中でひときわ目を引いたのが、夜のサウサリトの海辺のホテルを描いた一枚だった。
「これ、欲しいな」と思って、
「Hello!」と
声をかけてみると……
奥の扉がギィィィと開き、モクモクと煙と共に現れたのは、
寝起きか何か?という顔をした中年の男性。
「な〜に?」
「この絵、買いたいんですが」
「ああ。。%$&#。。。」
「は?」
聞き返してもモゴモゴ言うばかり。どうも様子がおかしい。
よく見ると、目がトロンとしていて、テンポがゆらゆらしている。
……あ、これは「葉っぱ」世界の住人だな。
とリあえず、値段を交渉。。。。
結局、「それ,人からの預かりものだから安くならない」とぶっきらぼうに言われ、
背中で“さっさと帰れオーラ”を浴びながら、絵だけ買ってそそくさと退散。
旅とは、予定外の風に吹かれること
サウサリトの旅は、静かなようでいて、絵とジャズと煙と女神と、ちょっとした幻覚的体験が混ざった、不思議な時間だった。
旅に出ると、思いがけない出会いと、予期せぬ出来事が続く。
あの絵をいまも部屋に飾りながら、ふと目をやるたびに思う。