旅先のレンタカー。
それは、自由の象徴であり、同時に混乱の始まりでもある。
アメリカで車を借りる時、「カーナビ付き」とリクエストしておく。
でも、安心してはいけない。
その“カーナビ”というやつ、日本で慣れ親しんだ車載一体型のアレではない。
出てきたのは、ちょこんとフロントに後付けされている小型で頼りなさげな機械。
その名も――「NeverLost」(ネバーロスト)。
“絶対に迷わない”って意味ね。
でもね、この子、けっこう迷わせてくる。
高速道路を走ってると、案内が絶妙に遅い。
「次の出口で降りてください」って言われた時には、もう真横に出口があるんですよ。
「え?今?ここ!?」と焦ってる間に通り過ぎてしまうと、
なぜかカーナビの声が「オッ…オッ…」って、軽く嘲笑してるいように聞こえる。
空耳じゃないよね?あれ。
案内してるくせに、自分も迷ってる感じ。
もうこっちは助手席のナビじゃなくて、同乗者のポンコツ友達みたいに思えてきた。
特に印象深かったのは、サンフランシスコから2〜3時間ほど北のボデガベイに行った帰り。
美しい海岸線に癒された後、「さぁ、帰るか」とネバーロストに道を任せたのが運の尽き。
案内された道を進むと、なぜか山の中に突入。
右も左も民家も見えない。見えるのは鹿と、ちょっと怪しげな廃トレーラーハウス。
「おいおい…どこに連れていく気だ?」
もちろんナビには通じない。
でも、つい怒鳴ってしまう。「お前、わざとか!?」
口げんかはエスカレート。
最終的には「もう黙れ!」と、音声OFFにしたのだった。
後日、友人にこの話をしたら、思いがけない事実を教えてくれた。
「ああ、ネバーロストね?あれが原因で離婚した夫婦、けっこういるらしいよ」
うん、わかる気がする。
道間違えるたびに責任のなすりつけ合いになるもん。
「だから言ったじゃん!」が爆発トリガー。
ネバーロスト、恐るべし。
というわけで皆さん、アメリカでレンタカーを借りる際は、
ナビは“オプション”ではなく、“人生の試練”と思って準備しておきましょう。