イギリスの政治がここにきて騒がしくなってきました。国民的な支持のある労働党のアンディ・バーナム氏が、下院補欠選挙で当選し、労働党の党首選に挑む権利を得たのです。スターマー首相の交代論は、今年に入ってから何度もニュースで取り上げられてきた話題です。今年5月の地方選で与党労働党は敗北を喫し、スターマー氏の交代論は現実味を帯びてきました。

 

 

原因は、スターマー氏が国民に不人気であることです。世論調査での与党労働党の支持率は、20%を切るほど低迷していました。首位を走る新興ポピュリズム政党のリフォームUKに10%程度、差をつけられていました。これほど、国民に不人気な首相も珍しいというくらい、スターマー氏の不人気ぶりは際立っていました。

 

スターマー氏は、特に目立った失政を行ったわけではありません。むしろ、財政面では均衡財政を実現し、市場の信認をえるなど、安定したかじ取りを行っていました。不人気の理由として考えられるのは、年金生活者の冬季暖房手当のカットをしたり、福祉改革と称して、障害手当金の削減をしようとしたことです。スターマー氏は、労働者階級の出身であり、立身出世を遂げて検察長官になった人物です。職務に忠実な同氏は、「仕事をしている人が報われる政治」を掲げる一方で、理由があって仕事をしていない国民には、冷徹ともいえる政策をとったということです。それが、従来までの「福祉の党」としての労働党のイメージダウンを招いたということはあったでしょう。国民が、離反していき、支持率は低空飛行となってしまいました。

 

対するバーナム氏は、労働党のブレア政権とブラウン政権で閣僚を務めた人物で、現在まで、グレートマンチェスター市長を務めていました。政治色は、スターマー氏よりは左に位置しており、市長としても実績を上げてきた実力派です。市長時代には、バス公営化によるサービス向上、再工業化政策などを実施し、評価を高めてきました。「北の帝王」と呼ばれ、国民的な人気もあり、国会議員ではないのに、首相候補とされてきました。今回、党首選に出る権利である下院議員の資格を得たのです。

 

ぶっちゃけた話、不人気のスターマー氏では、選挙に勝てないから、党首を交代して次回の下院選挙に備えたいという労働党議員の思惑が、今回の出来事の背景なのでしょう。それゆえ、目立った失政はないスターマー氏を引きずりおろす動きが大きくなっていったのです。やはり、どの国でも政治家というのは、選挙で勝つことを第一に考えるのは、洋の東西を問わず一致しています。しかし、失政をしていないのに、首相の座を追われようとしていることには、厳しい政治屋の世界の現実があるのだと思わざるを得ません。

 

党首選は、労働党下院議員の81名の推薦を得た場合、挑戦することが可能となります。バーナム氏は、81名確保は間違いないと言われています。党首選は、党員一人一票での投票で決まりますが、党員の支持動向では、バーナム氏の人気は高いと言われていますから、バーナム首相誕生は現実味を帯びています。スターマー氏としては、即辞任するか、次期を決めてバーナム氏に禅譲するか、党首選挙で敗北するかという選択肢になっており、首相交代は、まず確実と見られています。

 

一歩先に進んだ話になりますが、もし仮にバーナム首相が誕生すれば、労働党は息を吹き返すでしょうか。バーナム氏は左派色の強い政治家です。バーナム氏は、国民の手当、給付を充実させ、家賃高騰に対して有効な政策を実施したりするなど、国民の生活実感がよくなるようなことをすれば、政権支持率が上がる可能性もあります。しかし、左派の登場というのは、ブレア元首相、ブラウン元首相、そしてスターマー首相と続いた市場推進派の政治を変えるという意味で、労働党にとっても最終手段に出たことを意味します。持てるカードをすべて切ってしまう、そういう状況に労働党は追い詰められているとも言えます。果たして、イギリス労働党は、政権を担う大政党として生き残ることができるのでしょうか。イギリスの政治には、今後も目を離すことができません。