母と、鍋のお店に入った。
席につき、注文をする。
私はトマト鍋で、母は酸っぱい味の鍋。
店員さんが言う。
「タレ、白米、スープ、サラダは、各自でどうぞ」
私も母もまだまだカタコトなので
2,3度聞き返し、やっと理解する。
そうか、サラダバーみたいになってるんだな
あっちに行けばあるんだな
と思い、まず、私が出陣。
きっと、これがスープで
これが白米で
へぇ、アイスまであるじゃない。
ところで…
サラダはどこだ?
わからないまま、割り箸だけ手に持ち
母のもとへ戻る。
「わかった?」
「スープとご飯はわかったけど
サラダはなかったよ」
収穫なしの私を見かねて
次は、母が出陣。
母は、スープを入れて持ってきた。
しかし、やはりサラダはなかった。
首をかしげながら、二人で
スープを飲む。
「えっ、随分と濃いね!」
「やっぱり台湾人は濃い味が好きなんだね」
と話し、周りを見渡す。
母が言う。
「違う、これ、スープじゃない。
タレだ。」
いかにもスープのような外見で
いかにもスープ用の器が隣に置いてあったので
スープだと思って飲んでしまった。
勝手に濃い味が好きとか言ってごめんなさい台湾人。
もはや何がなんだかわからず、疑心暗鬼になり
母は、周りのテーブルを凝視しながら
再び、出陣。
あまりにも、周りのテーブルを凝視するので
店員さんが心配そうに
周りのテーブルを凝視する母を凝視していた。
やはり、サラダはない。
「サラダ」という看板は出ているんだけれど
どこにもサラダはない。
そんなこんなしているうちに
肝心の、鍋がやってくる。
店員さん、鍋を置き
去り際に、一言。
「サラダは各自となっていますので」
私と母は、もはや
狐に包まれたような気分。
鍋を食べながら、さらに
周りを観察し続ける。
サラダバーらしき場所の隣に
トースターが置いてある。
その前に、おじさんが、棒立ちしている。
そういえば、メニューにパンもあったな。
きっと、パンが焼けるのを待っているんだろう。
隣の席の老夫婦は
おじいさんが、アイスをとりに、出陣して行った。
おじいさん、アイスが固いのか
長い時間かけて、アイスをすくっている。
おじさんはまだ、パンを焼いている。
アイスをすくい終わったおじいさんは
おばあさんの元に戻ってきて、アイスを食べ始めた。
おじさんは、やっと焼きあがったパンを持って
いそいそと席に戻った。
パンは、黒こげになっていた。
「なんで目の前で待ってて
あんな黒こげになるんだろう」
母が言った。
最後の最後まで
サラダの存在は、謎に包まれたままだった。