(サーラ)


昨日、仕事に出るとき、近くの公園の前の道路を、セミがよろよろと歩いていました。

飛んでいたのでも、羽ばたいていたのでもなく、文字通り、アスファルトの上を、あのか細い脚でよろよろとセミが歩いていたのです。

もう間もなく、このセミちゃんは、この世界での仕事を終えるのだろう。

そう感じました。

僕は、踏まれたりひかれたりしないように、セミちゃんをどこかに移してあげようかと一瞬思いましたが、そうすることもなく、そのまま通りすぎて行きました。

彼らが、今、燃やし尽くそうとしている命に対する畏敬の念と、それ以上に、手を出して急にバタバタされたりしたら、飛び上がる位にビビりそうな自分に気づいたからです。

「がんばれ」と声に出さずに言い、ここはクルマもほとんど通らないし大丈夫だろうと、自分に言い聞かせました。

しかし、そう思ったのもつかの間、普段はほとんどクルマ通りのないその道に、おばさまの運転するBMWが角を曲がってやってきたのでした。

「しまった」と思いました。

セミちゃんがいた場所は、ちょうどタイヤの軌道のあたりじゃないか?

僕は、振り返ることができませんでした。

セミちゃん、ぺちゃんこになったかなぁ、、

助けてあげればよかった、、

明日の朝、確かめよう。

そう思いながら、僕は歩ていきました。

あのセミちゃんは、背中がグリーンぽい色だったから、きっとすぐにわかるだろう。

そう思いました。

そして、今朝。

僕は、同じ道を歩きました。

昨日セミちゃんがいた場所を確かめるためです。

しかし、同じ場所を確かめるまでもなく、僕はすぐにセミちゃんを発見しました。

昨日の場所から、3メートルほど離れた公園の石段の上で、セミちゃんは息絶えていました。

おまえ、ひかれなかったんだ。

ここまで、よくたどり着いたものだな。

よく頑張ったなぁ。

今朝、そぼ降る雨のなか、セミちゃんの体は水滴に包まれていました。

僕は、その姿を焼き付け、セミに伝えました。

「おつかれさま。もう誰にも踏まれたりするんじゃないぞ」