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昼食を食べ終わったヒカルは塔矢におめでとうと言えないまま、いつの間にか早碁を始めていた。


おめでとうって言うだけだ、とっとと言っちまおう。


塔矢はライバルだし頑張ったことは認めてるんだ。さくっと言ってさっさと終わらせよう。うん、そうだ。


そんなことを考えていたヒカルであったが、対局は終盤にさしかかっていた。


あぁ・・・言えない。だいたい塔矢が悪いんだまったく。


わざわざタイトルを取った次の日に家に来れば、お祝いの言葉を言いにきたってことくらいわかっているんだから、もうちょっと言われやすい態度をとれっていうんだ。


照れて言えない自分を棚にあげて、ヒカルは塔矢に向かって理不尽な怒りの視線を向けてみた。


しかし、その明らかに理不尽な視線は、対局に集中している塔矢の脇をすり抜けて壁にただただぶつかっていくだけだった。


ゴホンっと咳払いをして塔矢を振り向かせてみたりもしたものの、言葉を発しようと思った矢先、今度は早碁の宿命・・・あぁ、打たないと時間切れ負けだ。


こんなことを繰り返しながら終局を迎えた。


結果は6目半負け・・・。


もうこの際結果は二の次だ。意を決してお祝いを言おうとしたヒカルだったが。


ピンポーン。


今度は再び玄関のドアホンの音が塔矢邸に響きわたった。


こんな時にいったい誰だ・・・なんてタイミングの悪い。


「進藤ちょっと待っててくれ」


「わかった」


ヒカルが頷くと、塔矢は碁盤の前から席を立って玄関口へと消えていった。


はぁ・・・思わずヒカルの口から溜息が漏れた。


はぁ・・・もう一回。


塔矢がタイトルか・・・昨日は塔矢がタイトルを取った嬉しさと悔しさが凄く強かったけど、改めて塔矢ってスゲーんだな・・・あの若さでタイトルだもんな・・・。


俺は塔矢のことをライバルだと思ってるけど、塔矢は実際に俺のことをどう思ってるんだろう。


やっぱりあいつの目にはまだ、昔の俺が映ってんのかな?


もしそうだとしたら悲しいな・・・。


・・・俺は本当に塔矢に追いつけるんだろうか。


ドタドタドタ。


ヒカルが物思いに耽っていると、玄関口から駆け足のような早い足音が聞こえてきた。


塔矢だ。


「どうしたんだよ慌てて」


「進藤ちょっときてくれ」


普段落ち着きはらっている塔矢にしては珍しく慌てている。


これは何かあったな。


「わかった」


ヒカルはそれだけ言うと、なにも聞かずに塔矢の後についていった。