是非にと行ってみたい神社だった。穂高神社は安曇野市穂高に鎮座する。
 穂高連峰が神体だが、その山容は神社からは見えない。

 式内社(名神大社)で信濃国三宮、旧社格は国幣小社だ。
 本宮(里宮)のほか、上高地に奥宮、奥穂高岳山頂に嶺宮がある。


 祭神は、本宮の中殿が穂高見命、豊玉姫や玉依姫と同じく綿津見命の子とされる。
 神々の依り代としての自然であり、ものや玉に宿る神霊の表象、アニミズムの世界なのだ。

 それは古代人の畏怖、本居宣長の神概念「尋常(よのつね)ならずすぐれたる徳(こと)のありて、可畏(かしこ)き物を迦微(かみ)とは云なり。」に通じるものだろう。
 

 さらに左殿が綿津見命(海神)、右殿は瓊瓊杵命、別宮に天照大御神、若宮に安曇連比羅夫命が祀られる。

 山中に海神を祭るのも不思議だが、この神社は福岡の「志賀海神社」と同様、安曇氏の氏神なのだ。

 思えば安曇氏は宗像氏(宗像大社)や津守氏(住吉神社)とともに三代海人族の一族であるのだが、安曇氏は東遷し、ここに定着したのだろう。


 その安曇氏の祖とされるのが安曇連比羅夫。

 斉明天皇7年、百済救援軍の将軍となり白村江の戦いで戦死したとされる。
 中世、安曇郡一帯を治めた国人領主仁科氏が滅亡すると、安曇郡は松本城主の所領となるが、城主小笠原貞慶は神領としてこの地を寄進した。
 

 中殿の形式は「穂高造」と言われ、屋根には千木と釣竿を表わす勝男木が乗せられている。
 例大祭「御船祭」は毎年9月26日・27日に行われる。
 大きな船形の山車「御船」をぶつけ合う勇壮な祭で、県指定無形民俗文化財だ。
 本祭の27日は安曇比羅夫の命日とされる。


 その帰り、穂高駅の眼前には、秀峰「常念岳」をはじめ白銀を被った北アルプスの嶺々が聳え、神々しくも荘厳な風景をパノラマ状に望見させてくれる。
 そして水を引いた田圃に鏡のようにその影は落ちて、えも言われぬ美しさだった。
 スケッチは穂高神社本宮社殿だ。