前回からの「幽霊」会員問題。

実は、かつてうちの支部には「T」という幽霊(会員)がおりました。

Tは高校生で、当時の金山教室に入門、幽霊直前は就職もして青帯でした。

幽霊になったきっかけは

東日本大震災

当時、停電が続いたり、被災者の避難場所になったり、かなりの時間、稽古場所の確保が出来ませんでした。

そこで隣町にある、とある会社の一室を借り細々と稽古は続けましたが、

そこも使えなくなり、金山教室は名前だけの存在に

道場生は今の新庄教室へ来てもらうことにしました。

今考えると、これがTが道場に顔を出さなくなった瞬間でした。

恐らく知らない顔もいる隣の教室(支部)には通いにくかったのでしょう。

こんな状態が何年も続きました。

もちろん同じ町内に住んでいますから、たまに車ですれ違うことはあります。

が、直接会うことはなかなかありませんでした。

金山教室を無くしたのは自分の都合によるものだし、

Tには悪いな。との思いはいつもありました。

Tを無理やり退会にさせなかったのも、Tの空手に対する情熱を知っていたからです。


きっかけはある日偶然やってきました。

町の小さな食堂です。

Tは最初、あえてこちらを見ないようにしているのが解りました。


そのことで一瞬ためらいましたが、Tに声をかけることにしました。

「なんだ。Tじゃないか。稽古に来いよ」

Tは「はい。新庄ですか?」と

少し話しをして別れましたが。

空手家にとって大事な「押忍」という返事が「はい」にかわるほどの月日が経ってしまいました。


Tはその後、すぐに稽古に復帰し、10年振りに審査も受け、黄帯。

今では残業や体調不良で稽古を休むときも毎回連絡をくれる律儀さです。


稽古盛り、20代後半の空手人生を奪うきっかけを作ってしまった後悔がありましたので

毎回稽古に出席し、解らない点を色々と質問してくるTを見ると

あの時、Tに声をかけて良かった。としみじみと思うのです。

もしあの時、自分が空手への情熱を少しでも失っていたら

「こちらを見ないようにしている者」にわざわざ声をかけようとは思わなかったと思います。

幽霊(会員)復帰には

少しのきっかけと

指導者の情熱が人を生き返えらせるのだと思いました。