西の旅の目的は、本当にいくつもあったんだけれど。
そのひとつに、カバンのお直しがあった。
仕事柄カバンにA4サイズの紙が入る事が必須になる。

仕事カバンとして愛用している『一澤帆布』のトートバッグ。
それが、擦り切れて来たので、お直しに出すことが目的のひとつ。


それは、5年勤めた代理店を辞めて引っ越す決意をした、4年前の事。
私は、京都に舞妓になりにやってきた。

…いや、正しくは『3ヶ月、何もしない期間がぽっかり出来たので、友人と京都旅行に来たついでに、『お茶屋さんで舞妓体験』をした』のだけど。
京都に住んでいたら、恥ずかしくて絶対に出来なかった事。
だけど、旅の恥はかき捨て!!とばかりに、一緒に行った友人の熱弁に当てられて、舞妓扮装をやるはめになった。
その時。
折角だから。と、『一澤帆布』へ。
当時はまだ、新三郎さんがカウンターにいた。
帆布は、修理をして使えば何年も愛用できる事。
継ぎや、繕いミシンの跡も、何年も使い込んだカバンの証になること。
『修理に出したら、直しが利くんですか?』
『出来る範囲で、させてもらいますよ。』
熱く語る、新三郎さんのお話を、ふうん?と拝聴する。

なるほど、そんなカバンだったら、今の半端な自分が完成して行くのには、丁度良いのかもしれない。
あっちこっち、修理しながら、自分と一緒に育ってゆくカバン。
そうか、私はこのカバンと一緒に成長しよう。
そう思って、その時に買った『仕事カバン』。

2年使ってほつれが出てきて、お修理に出した。
お仕事カバンは、継ぎが当って戻ってきた。
それから2年。
あの、騒動がおきた。


以降の『一澤帆布』と『新三郎帆布』が気になっていたので、お直しついでにお店の見学もしてみよう。
そう思って京都に来た。
京都の友人曰く
『修理に持ってくなら、『新三郎』の方やで。職人さんは全部新三郎についていったからな。』
…なるほど、地元民はそんな認識なのね?



東山通りを八坂神社を背にして、三条方面に上がって歩いてゆくと、まず右手方向に新三郎帆布がある。
その目と鼻の先、対面(左手)に一澤帆布。

店舗の場所は、駅や観光寺から少しだけ外れているので、別のところに出店しても良かったはずなのに。。。
何だか、対抗感が満載に感じる気がする。


古風だけど、新しい店舗。
帆布がかもし出す糊のにおい。
わいわいと、人がいて、お店に沢山並んだ帆布のカバン。
モダンで形も色もとりどりのカバンたち。

…うーん。
それなりに可愛いんだろうけれど、新しくて軽薄なイメージが否めない。
『別ブランド』という形で袂を分かって、新しく始めたのも解るんだけど。。。
『素朴な物』をシンプルなデザインと確かな縫製で、形にするのが(旧)『一澤帆布』の良さだと思っていたんだけどな。


念のためカバンを持ち込んで、『一澤帆布』のカバンだけど、お直しが出来ないか聞いてみる。
『修理しても、同じ色が使えないので、持ち手や当て布の色、飾り金具のデザインが変わってしまいます。』
…そうかー。。。

伝統ある『意匠』を捨てて、技術だけを持って別のお店を構える。とは、こういうことなのね。
店員さんも、どこか辛そうに応えてくれる。
ちょっと卑屈っぽくも見えるのは、穿った見方なのかな?



→つづく