金正日政権が意図せぬ崩壊を迎えるとすれば、それは以下の三つあるいはその複合が考えられるだろう。

 一つは単年または複数年の冷夏・猛暑・台風水害その他によって生じる大規模な食糧危機。金正日は民の飢えなど気にしないだろうが、アメリカの北朝鮮人権法案が可決した今、大規模な飢饉に基づく食糧支援要請には、国連およびアメリカが介入するだろう。その際に離反工作を行う、あるいは金王朝当局に依らない「正確な」情報が伝わることでの難民の促成。
 東欧の崩壊は、衛星放送の普及により西側の情報が齊らされたことが一つの契機となったという分析がある。なにぶん、ラジオのチューニングがハンダで固定され、他の局を聴けるようにするだけで収容所に送られてしまう、死刑になってしまうような国であるのだが、一説では昨今の脱北者増の傾向は、携帯電話などにより「韓国のほうが豊からしい」という情報が伝え広まっているからとのことだ。(尤もこの見解には疑問がある。あのような飢餓国が、韓国は自分たちより貧しく、搾取されて苦しんでいると教えられて信じるものだろうか。)外部からの情報の伝達は、確実に金王朝を崩壊に近づけるだろう。但し、韓国や支那がこれらの援助を行うことで、こうした機会が阻害される虞はある。(日本が援助を行っても同様で、積極的な工作など不可能だろう。)

 第二にはクーデターだ。金日成の死後、数回のクーデター未遂があったという話がある。どの程度のクーデター未遂だったのかは不明だが。飢饉などによる配給不足から軍部に動揺が生じ、という流れだと聞いている。昨年の爆発事故の際も、金正日を狙ったテロだったという噂が囁かれた。
 もっとも、クーデターが本当に人民の解放ための決起であったなら、なぜ38度線に向けて進軍し、韓国およびアメリカの介入を呼ばないのか、という疑問は残る。実は単なる易姓革命だったりするのか? それとも、クーデターの首魁にしても金正日体制しか知らないであろうから、金正日が間違っているだけで計画経済は正しい、共産主義でなければ人民のための政府は作れない、韓国のような傀儡の力を借りては堕落する、などと考えているのだろうか。

 最後に金正日の急逝。日成→正日の継承とは異なり、まだ正式には後継者が決まっておらず、派閥対立による内戦が生じる可能性もある。直近に起こる可能性はあまり高くなさそうだが、生じたときの金王朝崩壊の可能性は上記2項よりも高いだろう。そして、間違いなく連鎖的に起こるのが、国内統制の混乱や配給の混乱、軍内部での派閥の離反である。その際にスムースに粛清を行い国内規律を取り戻せるだけの指導者でない場合、この混乱に介入する口実をアメリカは得ることになるだろう。それをきっかけに崩壊へと進んでいくのが「自然な」ながれであると考える。

 以上3点のうち、天災については支那と韓国が援助を行うことで崩壊を妨げることができる。クーデターは、タダでさえ物資や食糧の乏しい金王朝で国外からの支援なしにゲリラ戦術などできようはずもない。軍部の離反以外には期待できなそうだが、金親子は60年にわたる密告体制のおかげでこれを何度も凌いでいる。やはり金正日の死以外に金王朝の自壊はない気がするのだがどうだろうか。

 さて、前回と総合して考えると、短期的に金王朝が崩壊する可能性は、核問題にからむアメリカの武力制裁か、金正日の死に基づく混乱から、ということになる。金王朝の「軟着陸」というか民主化は金輪際ありえない。民主化すれば暴動と脱北で収拾がつかなくなるのは必定だからだ。また、同様の理由から韓国との一国二制度的連邦もありえない。金王朝には現状維持か崩壊以外しか道が残されていないのだ。
 然るに、韓国は昨日も、日本の“覇権主義”を非難する声明を大統領の名で公式サイトに載せた。サイトで他国を非難という行為自体も前代未聞だが、その内容も意義も頓珍漢である。一部韓国マスコミによれば、日米韓の陣営から抜け出し支露朝の陣営に加わることも検討、などという既知外じみたことまで言っている。歩調を合わせようとしないどころか瀬戸際外交まで始めた韓国に、アメリカは相当ストレスを溜め込んでいることだろう。尤も、アメリカは在韓米軍を整理しないことには金王朝に手を出しにくいので、そういうアングルやっているという可能性も留保しておくが、まあ、ライス女史の態度を見る限りそれはないだろう。韓国の経済は今年の夏以降、急速な冷え込みを見せると予想しておく。