筆文字『虎』は、
書家・書道師範でありデザイナーでもある
喜多 瞬生(Kita Shunsei )の個人事務所。
どこにも帰属してない独立系事務所です。
書家がついでにデザインをしているわけではありません。
デザイナーが余技で筆文字を書いているわけでもありません。
書。デザイン。どちらも本職です。
遥 ~ Perth WA Australia ~
人が抱える不安や心配。
その多くは、案外
自分自身の想像や妄想が
創りだしたものだったりする。
自分で創った魔物に
自身が畏れをいだく。
自分の創意工夫や頑張りで
取り除くことができる不安なら
怯えるよりも
解決方法や進むべき道を見つけ出すこと。
そして行動することだ。
でも、悲しいことに病や死など
自分の力が及ばないこともある。
それも現実だ。
ただ祈ることしかできないとしても
決して、自分を責めたり
おかれた環境を恨んだりしてはいけない。
*
生まれ育った街にも
帰る場所が無くなって久しくない。
仮の宿りのような
ちっぽけな茅屋以外に
こころ和む場所はなく
一歩外に出れば、常に放浪者である。
むろん、それが嫌いではない。
むしろ自分らしい。
そんな自分にも
地球上で唯一、
旅人としてではなく
訪れることができる場所がある。
ブログに幾度か登場したことがある
オーストラリアのパースだ。
パースには、自分が
『 オーストラリアの母 』 と呼ぶご婦人がいる。
先ごろ、82歳になった。
亡きご主人は、パースの名士のおひとり。
自分が、はじめて訪問した頃には
留学生数人を預かるホストファミリーをされていた。
現在、ホストファミリーはやめて
広いお屋敷で悠々自適の生活を送っている。
誤解を招かぬよう書いておくが
自分は留学などという高尚なステイではない。
▲テラスから眺める風景。目の前はスワン リバー。
毎朝、風に吹かれ、この風景を眺めつつ、のんびりとコーヒーを飲む。
夜はワインやビールを飲みつつ語り合う。
大好きな時間だ。
*
『 若い頃は、ハーレーに乗っていたの! 』
カッコいい ……。
今でも、ボーイフレンドが逢いにやってくる。
『 プールサイドの壁がさみしいのよ。
自分でモザイクを創って飾ろうと思うんだけど
魚の絵を上手くかくことができないの
デザイナーでしょ、絵を描いていって。 』
翌年、再訪問。
『 ほら、見て! 』
細かく砕いた何色ものブルータイルを
見事なグラデーションで貼り付けた
大きな魚がプールサイドに掛けられていた。
子供の頃から
アジアの文化に興味があったという彼女のために
書をプレゼントしたことがあるのだが
包みを開いて、喜んでくれるやいなや
壁に掛かっていた絵画をはずし、自分の書を飾ってくれた。
自分の仕事に関しても、真剣に耳を傾け
ときにアドバイスをしてくれる。
そんな女性だ。
大学教授、建築家などといった
4人のお子さんたち ( といっても自分より年上だが ) も
日本から来た得体の知れない放浪者に対し
旧知の友のように接してくれる。
初めてパースの地を訪れてから、約7年。
毎回、彼女のお宅に滞在させていただいている。
おかげで、ホテルなど公共の宿泊施設には
1度も泊まったことはない。
彼女は宿泊費さえ受け取らない ……。
休暇さえあれば、チケット1枚とって
いつでも訪ねていくことができる。
そのオーストラリアの母が
今年の初めに心臓の病で緊急入院した。
手当ての甲斐あって、
今は元気に自宅で暮らすことができるようになるまで回復した。
以前は、あまり思わなかったのだが。
昨年、会った時には、さすがに 『 年をとったなぁ 』 と感じた。
確実に近づいてきている ……。
別れの と き ……。
彼女の年齢と病のことを考えると
逢えるときに、逢っておきたい。
あの時、パースに行っておけば。
そんな後悔をせぬように。
日にちは未定だが
近々、行ってくる予定。
▲滞在中は散歩が日課となる。
彼もすでに犬年齢にして12歳 ……。
▲歩いて数分のところにビーチがある。犬の散歩コースでもある。
ひたすら続く水平線。 インド洋に沈む夕日は美しすぎる!
*
ご主人が、まだご存命だった頃、
ご主人の仕事の関係で、数十年前に2度ほど
日本に来たことがある彼女。
『 ぜひ、また日本に来てよ! 』
そう言って何度も来日を促したのだが
年齢のこともあり、来日を頑なに拒んでいた。
それでも諦めずに説得を続けた結果、
ようやく日本に来てくれることになり、
本来ならば、今年の春、来日する予定だったのだ。
その夢も、叶わぬものとなってしまった ……。
『 古都を訪れて、桜を見よう! 』
咲き誇る桜を楽しみにしていた彼女。
こんなものが
彼女の知る
最後の日本の桜になってしまうだなんて ……。
今年が最後。
今年が最後。
そう思いつつ、今後は逢いにいこうと思う。
結果、気がつけば10数年経っていた。
そんなふうになってくれたら ……。
あまりにも自分に都合の良い解釈だが。
*
遥か 南半球の街。
5,000 キロ。
意外に遠いことに
はじめて気づいた。
*
母の日によせて。
1日、遅れてるやん ……。
瞬 生




