オペラにはよく殺人のシーンがある。

 

このブログで前に書いたカバレリア・ルスティカーナもそうだし、

カルメンも、オネーギンも。

まだ書いていないけど道化師とかドン・ジョバンニ、運命の力にもね。

あとルチアもそうか。オテロも。

 

まあオネーギンや運命の力は決闘なんで、正確には殺人とは違うのかも。

まあ決闘なんてした事ないんで良くわからんが。

 

こうしてみると人殺しばっかだな、オペラって。

 

そしてこのトスカにも殺人のシーンがある。

しかもかなり濃厚。

 

で、いつ、どこで殺すか、ってことなんだけど、

こんな感じで分類。

 

「いつ?」

①冒頭

②途中

③終幕

 

「どこで?」

①舞台上の観客の目の前で

②舞台裏で

 

「どうやって」

①首締め

②銃器

③刺殺

④その他

 

「いつ」については、冒頭がいちばんあっさりしているかな。

ドン・ジョバンニとかね。あまりないけど。

冒頭の場合は、これから始まるストーリーのきっかけとしての事件。

 

次にあっさりが終幕。まあいうても人殺しなんであっさりもなにもないんだけど、

終幕の場合はこれまで起きてきたストーリーの結果として殺しちゃった、っていう

感じかな。

これが一番多くてカルメン、カバレリア、道化師、オテロなどなど。

 

で、途中ってのが一番ドロドロしている。オネーギンやルチアがそうだけど、

殺人に至るまでの経緯、その後の展開が同時に楽しめる。

いや実際の殺人は決して楽しめないけど、オペラはエンタメだから楽しめないとね。

 

そして「どこで?」だけど、これはもう舞台上の観客の前でやっちゃうほうが激しい。

ルチアみたいに舞台裏で殺しちゃって血みどろで観客の前に登場するのも

まあドラマチックではあるけどね。

舞台裏での殺人は、他にもカバレリアがそうだね。

「きゃー、トリッドゥさんが殺されちゃったー」

っていう叫び声が舞台裏から聞こえてきて、それで幕が降りるってのも、

粋な演出だよね。

 

「どうやって?」。

舞台上の殺人にもいろいろある。オネーギンはピストル、オテロは絞殺。

④その他、っていうのは、例えばトロバトーレ。焼き殺しちゃいます。

 

でもまあ刃物でグサッとっていうのが一番ハラハラドキドキいたします。

 

 

で、このトスカは

いつ→途中

どこで→舞台上

どうやって→刺殺

と、オペラの殺人としては三要素併せ持った申し分ない作品となっております。

 

怖いオペラね。

 

でも、トスカの殺人の怖いところは殺人の瞬間そのものじゃない。

おドロおドロしいのは、殺しちゃった後の数分間。

 

加害者はトスカさん(女)、被害者はスカルピアさん(男)。

このスカルピアって男は悪の権化みたいな役で、まあ汚ったない権力者エロじじいですよ。

だから観客は彼が殺されて当然と思っているので刺殺の瞬間は万々歳ですよ。

 

問題は殺した後。トスカさん、いろいろ「事後処理」をしなくちゃいけないんです。

彼の手に握られている書類をもぎ取ったり、室内の灯りを消したり、と。

 

で、信心深い彼女は自分が殺した男の冥福を祈ってか、死体の両脇に

火のついたロウソクを二本立て、胸に十字架を置いて、そっと部屋を出ます。

彼女が部屋を出て、ロウソクの灯りでぼんやりと浮かぶ男の死体の他、

なにも見えない舞台に静かに幕が降ります。

これがトスカ第二幕の幕切れ。

 

この殺人の後、犯人が一人でいろいろやるっていうところ、

往年の名ドラマ「刑事コロンボ」に通じるところがあります。

観客(視聴者)が犯人に感情移入しちゃうって意味でね。

 

それまでは男女の駆け引き、争い、そして殺人と荒々しい音楽が鳴り響いていましたが、

幕切れの音楽は本当にそっと、そっと、まるで遺体のそばに蝋燭を置くように

静かに引きずるような和音です。

 

スカルピアさん。

個人的には嫌いではありません。だって欲望に素直に従う男なんだもん。

きっとこういう男に惹かれる女性(と男性)も多いと思います。

 

たださあ、下品なんだよね、なんつうか、たたずまいが。

 

トスカさんに惚れちゃったのよ。でもトスカさん、オペラ歌手よ。

そんなんと寝ても幸せになれないじゃん。

それよか、ずっと舞台の上の彼女を見ていたほうが長く楽しめただろうに。

あーあ、無理したから殺されちゃった。

きっとトスカさんのことをナメてたんだろうね。

そんなトスカさん、スカルピアさんを刺して曰く

 

「これがトスカの接吻よ!」

 

そう、ここがこのオペラの頂点です。

 

そんなこともしそうにない「か弱き」女性が大胆に人を殺す。

オペラのちょうど真ん中あたりにこのシーンを持ってきてクライマックスにする。

トスカが優れた作品と言われるのは、こうしたストーリー運びの妙によるかと。

 

で、終幕の第三幕では結局直情的なトスカさんより、政治家であったスカルピアさん

のほうが一枚うわてだったというサプライズがあり、トスカさんも自殺して

幕が降ります。しかも投身自殺。あんましないよね、投身自殺って。

他にはイリスくらいかな。

 

終幕の幕切れで自殺っていうオペラも結構たくさんあります。

有名なのが、でました「蝶々夫人」。トスカと同じくプッチーニ作曲の作品です。

 

蝶々さんについても今度書こうと思います。