俺を逮捕してくれ

俺なんだ、この女を殺したのは

ああ…、カルメン、

俺はこんなにもお前を愛しているんだ

 

今刺したばかりの、血に塗れた女を胸に抱き、

男は泣きながらこう叫んで、幕が降ります。

 

まあベタなオペラですわな。

 

日本人大好きなものに「三大なんとか」ってのがあるけど、

カルメンは三大オペラのひとつです。

 

そんなこと最近はめっきり言わなくなったけど。

 

ほかの二つは「椿姫」と「蝶々夫人」だそうです。

 

ふーん。

 

一つ前の記事でカバレリア・ルスティカーナのことを書いて、

「好きだけど憎い」がテーマの男版ってなんだっけと思って

すぐに「そりゃあカルメンだろ」って思って書いています。

 

タイトルが示すようにカルメンさん(女)が主役なんだけど、

テーマの主眼は彼女じゃない。

 

ストーリーを貫くのは「男の性」です。

 

タイトルとテーマがずれていると言う点では

この二つのオペラは似ている。

 

でも全然違う。

 

それは、カバレリアの方は常に「神」の存在が

示唆されているのに、カルメンからは神を感じません。

 

感じるのはただただ「人間」です。

 

まずさあ、あの最初の前奏曲。あの出だし。あれはズルいよ。

 

ちゃんちゃか ちゃらちゃら

ちゃんちゃか ちゃらりら

ちゃんちゃか ちゃられられー

(はい!)

 

笑点かよ

(パフッ!)

 

まあ作曲者のビゼーってすごいね。

もういきなり観客の耳と心をワシヅカミだもん。

 

どんな音楽が「楽しい」のか知っている人だったんでしょうね。

その意味で「人間」をよく知っている。

 

カルメンさんはエロの女王。そのことを自分でも知っています。

絶対に本気になってはいけないタイプの女です。

 

男にもそう言う人はいるけど。

 

だからそう言う男女同士がくっつく分には

「お幸せに」

って事でいいんでしょうけど、それじゃドラマにならないから

くっそ真面目な男が出てくる。ホセさんですね。

 

かわいそうに、カルメンさんなんかに出会わなければ、

ミカエラさんと結婚して、子供もたくさんこさえて、

田舎のおっ母さんもニコニコで、充実ライフだったでしょうに…

 

結局、ホセさんはカルメンさんを殺すという事しか

落としどころを見出せませんでした。

 

その点でもカバレリア・ルスティカーナと似ているっちゃ

似ているんだけど、なんかね…、個人的には、カバレリア

ほどの深みを感じない。いや好きなのよ、カルメンも。

だけど、1時間半のカバと3時間半のカルメンなら、

経済効果から言ってどっちがお得?

 

経済効果だって。バカか俺は、って書いてて思った。

 

もっともカルメンには「血湧き肉躍る」という

人を興奮させる音楽がたっくさんあるんでね。

なんせ、三大オペラの一つですから。

 

中で、一番好きなのはミカエラさんのアリア。

あれは泣けるねえ。暗い夜の山道で一人で気丈に歌う彼女。

抱きしめたくなっちゃう。

俺ゲイだけど。

 

「好きだけど憎い」という地獄を抱えた人は、

いろんなオペラの中に出てきます。

中でもイチ押しなのは、モーツァルトの「ドン・ジョバンニ」に出てくる

ドンナ・エルヴィーラさん(38)。

いや、年齢は想像だけどね。

この人の話はまたいつか書きます。すごいからね、この人も。

 

それにしてもホセさん、もうちょっと遊び人だったらよかったのにね。

ほどほどに付き合う、ってのを知らないとね。

 

なんでものめり込むと碌なことにならない。