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赤ちゃんの下痢が続く夜に。脱水サインと、経口補水液の飲ませ方
正直に書きますと、私が最初に数えていたのは「回数」でした。
赤ちゃんの下痢が続いた夜、水様便のたびにおむつを開けて、何回目かを頭の中でカウントしていたんです。ところが後から調べていくと、本当に見るべきなのは便の回数ではなく 脱水 のほうで、そして家庭でできる備えの中心が 経口補水液 だということを知りました。
この記事では、夜中に確かめられる脱水のサインと、やりがちな水分補給の落とし穴、経口補水液のゆっくりした飲ませ方、そして「これは待たずに受診」というラインまでを、生活の順番どおりに並べています。
なお、ここに書くのは一般的な情報です。最終的な判断は自己判断せず、かかりつけの小児科医にご相談ください。
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■ そもそも、なぜ赤ちゃんは短時間で脱水になるのか
乳幼児の急性の下痢は、その多くがノロ・ロタ・サポ・アデノといったウイルス性の胃腸炎によるものです。感染性胃腸炎は毎年秋から冬にかけて流行しやすい、と公的な資料でも案内されています。
重症化しやすいロタウイルスについては、日本では 2020年10月1日からロタウイルスワクチンが定期接種 になりました。国内の地域データでは、重症ロタ胃腸炎による 入院が76〜86%減少 した報告があります。ここは素直に、ありがたい変化だと思っています。
ただ、それでも下痢と嘔吐そのものはなくなりません。そして赤ちゃんは、大人より早く脱水に傾きます。
理由は体のつくりのほうにあります。
- 体重に占める水分の割合が高い(新生児は約80%、乳児は約70%、成人は約60%)
- 代謝率が高く、もともと必要な水分量が多い
- 体積に対して体表面積の比が大きく、皮膚などから逃げる水分が多い
- 腎臓の尿を濃縮する働きが未熟で、薄い尿のまま出てしまう
- そして何より、のどの渇きを言葉で訴えられない
つまり赤ちゃんは、減っていることを自分で知らせられないまま減っていく、ということなんですが。だからこそ、大人の側が見る目安を先に持っておく必要があるのだと思います。
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■ おむつは「回数」ではなく「濡れない時間」で見る
ここは私自身が勘違いしていたところなので、はっきり書いておきます。
ネット上では「おしっこが1日◯回未満なら重症の脱水」といった固定の回数基準を見かけることがあります。けれど、そうした具体的な回数の基準は、国内外の公的な指針では確認できませんでした。
理由は単純で、正常な排尿回数が月齢によってまったく違うからです。
- 新生児期:1日15〜20回
- 生後6か月〜1歳:10〜15回
- 1〜2歳:8〜12回
- 3〜4歳:5〜10回
同じ「5回」でも、新生児なら明らかにおかしく、3〜4歳なら正常の範囲に入りうる。年齢を無視した回数の線引きは使えない ということです。
国内の小児科の解説で実際に使われているのは、次のような見方です。
◎ 脱水を疑うサイン
- 6時間以上おむつが濡れない
- 尿の回数が普段の半分以下
- 尿の色が濃い黄色〜オレンジ色
- おむつがいつもより軽い
◎ さらに進んでいる可能性
- 12時間近くおむつが濡れない
◎ 正常のめやす
- 1日6回以上おむつが濡れ、色は無色〜薄いレモン色
回数そのものより、①濡れない時間、②普段のその子との比較、③全身のようす。この3つで見る、と決めてしまうと夜中でも判断がぶれません。
そして全身のようすには、こういうサインが含まれます。
- 泣いても涙が出ない
- 目がくぼむ、大泉門(頭のやわらかい部分)がへこむ
- 口の中や唇が乾く、よだれが少ない
- ぐったりして反応が鈍い、視線が合わない
- 皮膚をつまむと戻りが遅い、手足が冷たい・まだらになる
医学的な重症度の分類でも、粘膜の乾燥・頻脈・尿量の減少・眼窩や大泉門のくぼみ・皮膚のツルゴール低下は中等度、涙が出ない・脈が速く弱いといったものは重度の側の所見として整理されています。
月齢の低い赤ちゃんほど進むのが速いので、サインが1つでもあれば、時間内・時間外を問わず受診を検討する。 国内の小児科の解説はおおむねこの書き方で共通しています。
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■ 夜中に、つい手が伸びてしまう3つの飲みもの
ここが今回いちばん書きたかったところです。
1. 水・お茶だけ
「とにかく水分を」と思って、湯冷ましやお茶だけを飲ませたくなります。私もそう考えていました。
でも下痢のときに失われているのは水だけではなく、ナトリウムやカリウムといった電解質も一緒なんですね。
ここは表現を正確にしておきたいのですが、「水を飲ませると脱水が悪化する」ではありません。正しくは、水だけでは失われた塩分を補えず、血液中のナトリウムが薄まって低ナトリウム血症(いわゆる水中毒)を起こしうる、ということです。症状はめまいや頭痛などから始まり、進むと嘔吐・意識障害・けいれんにつながることもあると解説されています。乳児では、水分でおなかが満ちてミルクの量が減り、栄養が足りなくなるという問題もあります。
ただし、両方書いておきます。日本小児救急医学会のガイドラインには、明らかな脱水症状がなければ、経口補水液以外の水分をとってもよい という記載もあります。「水は絶対にダメ」ではないのです。危ないのは、下痢や嘔吐が続いている・脱水が疑わしいときに、水やお茶“だけ”に頼ること。この線引きだけは崩さないでおきたいところです。
2. ジュース・炭酸・甘いお茶
ガイドラインでは、炭酸飲料、市販の果物ジュース、甘いお茶、コーヒーは避けるべき飲料 として挙げられています。高脂肪の食事や糖分の多い飲料を避けることも同じく推奨されています。
理由は糖の多さです。糖質が多いと浸透圧が高くなり、かえって水分が腸に引き出されて下痢が悪化しうる(浸透圧性下痢)と説明されています。よかれと思って甘いものを飲ませると逆に働く、というのは知らないと分からないところでした。
3. 乳児用イオン飲料の“多飲”
これは日本で実際に報告があるので、そのまま書きます。
日本小児医療保健協議会の栄養委員会の報告によると、1986年以降、生後7か月〜2歳11か月の33人が、イオン飲料などの多飲によるビタミンB1欠乏で意識障害や浮腫を起こしています。うち24人は2007年以降の報告で、転帰が判明した27名のうち1名が死亡、12名に後障害 が認められたとされています。
機序はこうです。イオン飲料の多くは糖やミネラルを含みますが、糖をエネルギーに変えるために必要なビタミンB1は含まれていません。 ビタミンB1を含むミルクや離乳食をとらずに飲み続けると、欠乏に傾いてしまう。
ですから整理はシンプルで、病気のときの補水は経口補水液、ふだんの栄養はミルク・母乳・離乳食。イオン飲料を「水分補給の主役」にしない、ということです。
4. ミルクを薄める
ついでにもうひとつ。ミルクは希釈しないことが推奨 されています。薄めても治るまでの経過に利点はない、というのがガイドラインの記載です。
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■ 経口補水液は「ゆっくりすぎるくらい」で入っていく
日本小児救急医学会のガイドラインは、脱水がない〜中等症の脱水では、点滴より経口補水療法(ORT)を推奨しています。しかも 症状が出たら自宅で速やかに開始する ことがすすめられています。点滴と同等の効果がありながら安価で、子どもが注射の痛みを感じなくてよい、という利点もあるとされています。
経口補水液が効くのは、ナトリウム-ブドウ糖共輸送 というしくみのおかげです。腸ではブドウ糖と一緒のときにナトリウムと水の吸収が進む。だから経口補水液は、電解質が濃く、糖は薄い設計になっています。スポーツドリンクの糖質が約6%なのに対し、医療用の経口補水液のブドウ糖は約2%。似た見た目でも中身は別物なんですね。
飲ませ方でいちばん大事なのは、速度です。
ガイドラインでは、吐き気があるときは1回5mLを5分ごとという飲ませ方が示されています。5mLの目安はティースプーン1杯、ペットボトルのキャップ4分の3ほど。問題がなければ1回量を少しずつ増やしていきます。吐いてしまった直後は、10〜15分待ってからスプーン1杯ほどで再開し、大丈夫そうなら5〜10分おきに増やしていく。うまく飲めないときはシリンジ(注射器型のスポイト)を使う方法もあります。
そして、嘔吐があってもORTは原則として中断しないとされています。嘔吐は時間がたてば止まることが多いからです。
コップでごくごく、ではないんですね。「これで足りるのだろうか」と不安になるくらいの少量を、ひたすら刻んでいく。私はここを知らずに一気に飲ませて、そのまま戻させてしまったことがあります。
ただし、1日にどれくらい飲ませるかという総量の判断は、自己判断で決めないでください。 体重や脱水の程度で変わりますし、経口補水液が何か月から使えるかも製品ごとに表示が違います。 製品の表示を確認したうえで、医師・薬剤師の指示に従うのが安全です。
なお、経口補水液が手に入らないときの緊急の代用として、ガイドラインには 食塩3gと砂糖18gを水1Lに溶かす 方法の記載もあります。ただ、これはあくまで手元にないときの緊急手段です。計量を誤ると危険なので、可能なら市販の経口補水液を選んでください。
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■ 「胃腸を休ませるために食べさせない」は、もうしなくていい
これも通念が更新されていた部分でした。
ガイドラインでは、脱水が補正されればミルクや食事は早期に開始してよく、長時間の食事制限は推奨されない とされています。食事の内容も、年齢に応じた通常のもので構わない。つまり、絶食の時間をわざわざ置く必要はないということです。
母乳についても明確で、嘔吐しているときを除き、経口補水療法中でも母乳栄養は継続すべきとされています。経口補水液で脱水を補正している最中でも、母乳を併用したほうが重度の脱水が少ないというエビデンスがあるそうです。
乳糖除去のミルク(無乳糖ミルク)については、すべての急性胃腸炎の子どもに最初から使う必要はないという位置づけです。下痢が長引く場合の選択肢、と考えておくとよさそうです。
避けるのは、高脂肪の食事と糖分の多い飲料。それくらいだと思ってよいのだと思います。
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■ 薬は、足すより減らす発想で
下痢が続くと「止める薬」を探したくなります。ここは、はっきり書いておきます。
下痢止め(ロペラミド)は、赤ちゃんには使えません。 添付文書上、生後6か月未満は禁忌、6か月以上2歳未満は原則禁忌です。3歳未満でイレウスを発症して亡くなった症例報告もあり、その多くが過量投与や2歳未満への投与に該当していたとされています。感染性の下痢では治療期間が延びるおそれもあります。市販薬を選ぶときも、下痢止め成分が入っていないものを、という判断になります。
抗菌薬も、投与しないことが強く推奨 されています。重篤な血便があってサルモネラや赤痢などの細菌感染が疑われる場合に限って検討される、という位置づけです。
制吐薬は、有効とするエビデンスのレベルが高いとはいえず、一律に使う必要はないとされています。
整腸剤(プロバイオティクス)は「下痢の期間を短縮する」というエビデンスがある一方で、そのエビデンスがある製剤と、日本で売られているものは菌種や菌量が異なるという但し書きがつきます。効くと断定はできない、というのが正直なところです。
亜鉛については、WHO/UNICEFが下痢の子どもへの補充を推奨しています。ただしCochraneのレビューでは、生後6か月未満では効果が見られず、下痢期間の短縮も生後6か月以上で平均約半日程度。もともと亜鉛欠乏や低栄養が多い地域が主な対象で、栄養状態が良好な子どもへの有効性は明らかではありません。 日本の一般的な乳幼児に自己判断で与えることはすすめられない、と考えておくのがよさそうです。
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■ ここからは待たない。受診・救急を考えるサイン
夜中にいちばん知りたいのは、たぶんここだと思います。
◎ すぐに医療機関へ/救急を検討
- 生後3か月未満の赤ちゃんの発熱・嘔吐・下痢(38℃以上の発熱があれば躊躇せず受診)
- 血便、特にいちごゼリー状・いちごジャム状の粘血便 → 腸重積症の可能性
- 緑色や黄色の胆汁性の嘔吐、噴出するような嘔吐 → 消化管の閉塞の可能性
- ぐったりして反応が鈍い、呼びかけに反応しない、視線が合わない
- けいれん
- 8時間以上おしっこが出ない(6時間で受診のサイン、12時間近くはさらに危険)
- 経口補水液も飲めない/飲むたびに吐く
- 涙が出ない、目や大泉門がくぼむなど、中等症〜重症の脱水サイン
腸重積は、生後3か月〜2歳、特に1歳までの乳児に多く、間欠的な腹痛(泣いては泣きやむ)・ぐったり・粘血便が特徴とされています。発症から時間が経つほど腸の血流が悪くなり、手術や腸切除が必要になる危険が高まる。時間との勝負だということは、覚えておいて損がないと思います。
判断に迷ったときは、#8000(こども医療でんわ相談) という窓口があります。ダイヤルするとお住まいの都道府県の相談窓口に自動転送され、小児科医や看護師に電話で相談できる仕組みです。厚生労働省の事業として2004年度に始まり、2010年度までに47都道府県すべてに広がりました。
ただし、受付時間は都道府県ごとに異なります。 元気なうちに、お住まいの自治体の案内を確認して電話帳に登録しておく。それが夜中の10分を節約してくれるはずです。
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■ おしりのケアと、家の中のこと
下痢が続くと、便の刺激でおむつかぶれが起きやすくなります。
- おむつ替えの頻度を増やす
- ゴシゴシ強く拭かない(皮膚を傷つけて逆効果になります)
- ぬるま湯や水を使い、やわらかいガーゼや脱脂綿でやさしく
- 真っ赤にただれて痛そうなときは、シャワーで洗い流すほうがよい
- 清潔にしたあとは、保湿剤や白色ワセリンなどの軟膏で保護する
- ケアしてもよくならないときは皮膚カンジダ症の可能性があるので、皮膚科か小児科へ
Photo: Tara Winstead / Pexels
家の中の感染対策も、地味ですが効きます。ノロウイルスやロタウイルスは感染力が強く、少数のウイルスでも感染します。基本は洗い残しのない手洗いです。
そして、アルコールが効きにくいのがこのウイルスの厄介なところで、消毒には次亜塩素酸ナトリウム(家庭用の塩素系漂白剤)を使います。厚生労働省の案内では、手でよく触れる場所は0.02%、嘔吐物や便など有機物の消毒は0.1%が目安とされています。
- 吐物や便は、乾燥しないうちに速やかに処理する(乾くと空中に漂い、口から感染することがあります)
- 使い捨ての手袋・マスク・エプロンを使い、処理後は手洗い
- おむつや拭き取りに使ったペーパータオルはビニール袋に密閉して廃棄。袋の中の廃棄物が十分に浸る量の次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度約1,000ppm)を入れるのが望ましいとされています
- 汚れた衣類は、他のものと分けて洗う
登園の再開については、感染性胃腸炎は出席停止期間が一律に定められた病気ではありません。保育所向けのガイドラインでは、嘔吐や下痢などの症状が治まり、普段どおりの食事がとれていることが目安とされています。便からのウイルスの排出は症状が消えたあとも続くので、回復後も手洗いとおむつ処理の徹底は続けてください。
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■ ひとことでまとめると
赤ちゃんの下痢で見るのは、便の回数ではありません。
「おむつが何時間濡れていないか」と「いつものこの子と比べてどうか」。
そして水分は、水やお茶“だけ”ではなく経口補水液を少量ずつ。イオン飲料は主役にしない。絶食はしない、母乳は続ける、ミルクは薄めない。下痢止めは使わない。血便・緑色の嘔吐・ぐったり・8時間以上尿が出ない、このどれかがあれば待たずに受診する。
最後にひとつだけ付け加えます。
この記事は一般的な情報の整理であって、診断や治療の指示ではありません。赤ちゃんの状態は月齢や持病でまったく変わりますし、目の前のわが子を見て判断できるのは診てくれる医師だけです。心配なときは自己判断せず、小児科を受診してください。 危険サインがあるなら、時間帯を気にする必要もありません。
私が一度目の夜に欲しかったのは、細かい知識よりも「この線を越えたら迷わず行く」という一本の線でした。それを先に持っているだけで、あの長い夜は少し短くなりますから。