子どもの便秘、水分2倍に根拠なし。トイレを怖がる子へできること
正直に書きますと、私はずっとこう思っていました。
「水をたくさん飲ませれば、そのうち出る」。
でも、資料を読み直していくうちに、その思い込みのほうを先に手放すことになったんです。「余分な水分をとることが便秘の治療に有効だという根拠はない」 — 国際学会のガイドラインには、そう書かれていました。
この記事では、子どもの便秘について、①よくある誤解 → ②なぜトイレを怖がるのか → ③始まりやすい時期 → ④家でできること → ⑤薬と期間 → ⑥受診のサイン、という順番で並べていきます。
先にひとつだけ。ここに書くのは一般的な情報の整理です。診断や治療の代わりにはなりません。心配なときは自己判断せず、小児科にご相談ください。
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■ まず、いちばん広まっている誤解から
「水分を2倍に」という話。ここは、はっきり書いておきたいところです。
ESPGHAN/NASPGHAN(欧州・北米の小児消化器の学会)の2014年のガイドラインは、水分についての研究を洗い直したうえで、「余分な水分摂取が機能性便秘の治療に有効であるという根拠はない」と結論しています。そのうえでの推奨は、増量ではなく 「普通の水分摂取(normal fluid intake)」 でした。
日本の学会のガイドラインも同じ方向です。「臨床的な脱水がなければ、水分摂取を増やすことの有効性は明らかでない」とされています。
国内の小児科医の発信も一致していて、済生会横浜市東病院の十河剛医師は「食物繊維、乳製品、水分のどれも便秘解消との関連性が認められない」「水分は尿として排出され、便を軟らかくすることにはつながらない」と述べています(日本経済新聞・2019年)。エコチル調査千葉ユニットセンターの解説でも「水分を多くとることの有効性は確かめられていない」「体操や運動量と便秘の関係もはっきりしない」とされています。
つまり、まず必要なのは増やすことではなく、普通の量をきちんと飲めていることなんですね。
ただし、例外の記載はあります。
- 便失禁(便もれ)がある場合や、食物繊維のサプリメントを使う場合は、日本のガイドラインに1日960〜1920mLという水分量の記載があります
- 発熱・下痢・猛暑などで脱水気味のときは、当然ながら別の話です
どちらも「うちの子に当てはまるかどうか」は自己判断で決めないでください。量も可否も、医師に確認するところです。
もうひとつ、赤ちゃんについて注意を。水分を無理に飲ませすぎると、母乳や育児用ミルクの量が減って栄養が足りなくなることがあります。よかれと思ってした足し算が、引き算になってしまうわけです。
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■ 食物繊維は「大量に」ではなく「普通に、そのうえで工夫」
ここは、国内と海外で見解が割れています。両方そのまま書きます。
- ESPGHAN/NASPGHAN 2014 — 5つの研究を評価したうえで「繊維サプリメントの使用を支持する根拠はない」。推奨は「普通の食物繊維摂取(normal fiber intake)」
- 日本の学会ガイドライン — 「有効性の報告もあり、食物繊維を増やすことを試みることが推奨される」。不溶性食物繊維は便量を増やし、水溶性食物繊維は腸内細菌の増殖を促す、という整理
順天堂大学の清水俊明教授は「繊維の多い食物を多く摂取し、菓子や清涼飲料水の摂取を控える」「野菜は加熱すると効率よく摂取できる」としています。一方で先ほどの十河医師は、食物繊維と便秘解消の関連は認められず、唯一関連があったのは食事の脂肪割合が高いほど便秘になりやすいという点だった、と述べています。
割れているので、私が書けるのはこの線までです。
まずは偏りのない普通の食事。そのうえで、食物繊維を含む食材を無理のない範囲で足してみる。
「プルーンやブロッコリーを積極的に大量に」という書き方は、しないほうがいいと思っています。
ヨーグルトや乳酸菌についても、断定はできません。ESPGHAN/NASPGHANはプレバイオティクス・プロバイオティクスのルーチン使用を推奨しておらず、日本のガイドラインは「症例によって有効」という書き方です。日本の解説には「有効性の報告はあるが、過剰摂取は逆に便秘の原因になることもある」という指摘もあります。
果汁については、もっと慎重に。
こども家庭庁の『授乳・離乳の支援ガイド』は、「離乳の開始前に果汁やイオン飲料を与えることの栄養学的な意義は認められていない」と明記しています。イオン飲料の多量摂取による乳児のビタミンB1欠乏の報告にも触れられています。一方で清水教授の解説には「乳児には果汁や糖水で腸内発酵を促進する」という記載もあり、専門家の間でも温度差があります。
ですので、乳児への果汁は「小児科に相談してから」。そしてはちみつは1歳を過ぎるまで与えない(乳児ボツリヌス症のリスク)。ここは動かしません。
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■ トイレを怖がるのは、わがままじゃないんです
ここが、この記事でいちばん伝えたかったところです。
子どもの便秘の 約95%は「機能性便秘」 で、原因となる病気がないものだとされています(残り約5%が器質的疾患)。では病気がないのに、なぜ長引くのか。
答えは、痛みの記憶です。
日本の学会ガイドラインは、こう説明しています。便が十分に出ずに直腸にたまりがちになると、直腸の壁が常に伸ばされることで直腸の反応性が下がり、便意が鈍くなる。そこに「出すと痛い」という嫌な経験が重なって、排便を避けるようになり、便秘がさらに悪化する。
MSDマニュアル家庭版の書き方は、もっと生活の言葉に近いです。便意があるのに出さないでいると直腸が伸びて便がたまり、やがて便意そのものを感じなくなる。たまった便はさらに硬くなり、悪循環になる、と。
痛い → こわい → がまんする → もっと硬くなる → もっと痛い。
この輪の中にいる子に「がんばって座ってごらん」と言っても、届かないわけです。怖がっているのは失敗ではなく、痛みのほうですから。
そして、たまった便が塊になると 便塞栓(ふんそくせん) と呼ばれる状態になります。ここに、親がいちばん誤解しやすい落とし穴があります。
硬い塊のわきから軟らかい便が漏れ出て、「下痢」や「おもらし」に見えるんです。
MSDマニュアル家庭版も「便塞栓の周りから漏れ出て小児の下着に付着し、便失禁になることがある」としています。エコチル調査千葉ユニットセンターは「硬い便ではなく汁状のものが漏れる」を、早めに受診してほしい黄色信号のひとつに挙げています。
「しつけの問題かな」と思ってしまう場面が、実は重い便秘だったということ。ここは、知っているかどうかで対応が変わります。
数としても珍しくありません。千葉県こども病院小児外科の検討(2020年)では、受診した1歳以上の慢性機能性便秘症 138例中48例(約35%)に便塞栓が認められています。
診断の目安としては、国際的にRome IVという基準が使われていて、たとえば発達年齢4歳未満なら「排便が週2回以下」「痛みを伴う排便や硬い便の既往」「便をためこんだ既往」などのうち2項目以上が1か月以上続くこと、といった形で整理されています。ただ、これは家庭で点数をつけるための表ではありません。当てはまりそうだと思ったら、受診の材料として持っていくのがいい使い方だと思います。
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■ 便秘が始まりやすい、3つの時期
始まる時期には、はっきりした山があります。MSDマニュアル プロフェッショナル版もエコチル調査千葉ユニットセンターも、挙げているのは同じ3つでした。
1. 離乳期(食事の移行期)
母乳や育児用ミルクという液体中心の食事から離乳食へ移ると、便が固形化してきます。ガイドラインの説明もこの「固形化」で、「腸の動きが鈍る」という説明ではありません。ここは正確に書いておきたいところです。
2. トイレトレーニングの時期
硬い便や太い便を出すときの痛みが強かったり、トイレトレーニングでうまくいかずに過度に叱られたりすると、排便後の快感よりも排便時の不快感のほうが強く記憶されて、便秘につながるとされています。
3. 入園・入学の時期
園や学校のトイレで排便したくない。恥ずかしい、時間がない、個室に入りにくい。その回避が、そのまま便がまんの習慣になります。
発症のピークは幼児期で、女児にやや多い傾向も指摘されています。
どれくらいの子が困っているかは、調査によって数字の幅が大きいので、ひとつの数値を「日本の子どもの◯%」と断定はできません。参考として、日本トイレ研究所が全国117校・小学1〜6年生16,655名を対象に行った7日間の記録調査(2021年)では、7日間毎日排便があった児童は36.0%、硬い便が7日間で2回以上出ていた児童は14.6%でした。
「うちだけかも」と思う必要は、たぶんないんです。
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■ 家でできること — 水より、姿勢と時間
では、今日から何をするか。地味ですが、ここが効きます。
◎ 足台を置いて、姿勢をつくる
便座の足元に台を置いて足を上げ、上体をやや前傾させる。すると骨盤がやや後傾して、直腸と肛門がまっすぐに近くなり、便が出やすくなるとされています。日経の記事のタイトルが「水分をとるよりトイレの姿勢を変える」だったくらいで、専門家が実効性を認めているのはこちらのほうなんですね。
◎ 朝食のあと、5〜10分だけ座る
食後は腸が活発に動く 胃結腸反射 が起きやすい時間帯です。このタイミングで5〜10分ほどトイレに座る習慣をつける。出す練習ではなく、座る練習として。
◎ 生活リズムと、登校前の時間
決まった時間に排便しやすくなるよう、生活リズムを整える。そして登校前に排便の時間を確保しておくこと。家で済ませられれば、園や学校での我慢を減らせます。
◎ 排便の記録をつける
日本小児栄養消化器肝臓学会は、患者さん向けに「排便日誌」を公開しています。記録は診察のときにも役立ちます。
◎ 叱らない。うまくいったら褒める
失敗を叱ると、悪循環のほうを強めてしまいます。
そして、これは意外だったのですが、凝った特別プログラムより基本のほうが推奨されています。 ESPGHAN/NASPGHANは「デミスティフィケーション(病気の正体をきちんと説明して不安を解くこと)、説明、トイレトレーニングの指導」を治療として推奨する一方で、集中的な行動療法プロトコルの追加やバイオフィードバックの追加、代替療法は推奨していません。
つまり、「これは病気で、あなたが悪いんじゃない」と子どもに説明してあげること自体が、治療の一部なんです。ここは、家でできることのなかで、たぶん一番大きいと思います。
なお、乳児の綿棒刺激(綿棒浣腸)については、小児科の解説で「1日1回まで、授乳や食事の30分後に」「1日に何度も繰り返すと直腸粘膜を傷つけうる」とされることが多いのですが、学会ガイドラインの正式な推奨ではありません。やり方も可否も、小児科に相談してからにしてください。
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■ 「出たからやめる」が、いちばんの落とし穴
ここは、薬の話になります。用量は書きません。書ける話ではないからです。
まず順番。治療の大原則は、①たまった便の塊を取り除く(便塞栓の除去) → ②十分な期間の維持療法、という順です。塊が残ったまま維持療法だけ始めても、漏れが続いてうまくいかない、とされています。
便塞栓の除去では、国際ガイドラインはポリエチレングリコール(PEG)の内服を第一選択としています。国内では、医師の管理のもとで浣腸や坐薬と経口の緩下剤を組み合わせる方法がとられ、千葉県こども病院の報告では外来治療44例中40例(90.9%)で便塞栓の除去に成功しています。
ただし、これは医師の指示・管理下で行われたものです。市販の浣腸を保護者の判断で連日使うことを勧める話ではありません。使うかどうか、量、回数は必ず医師の指示で。
維持療法で日本の小児によく使われる薬としては、酸化マグネシウム(長く使われてきた薬です)と、ポリエチレングリコール製剤(モビコール配合内用剤)があります。後者は日本では2018年に発売され、2歳以上で使えるとされています。具体的な量は、体重や年齢に応じて医師が決めるものですから、ここには書きません。
そして、いちばん大事なのが期間です。
日本のガイドラインでは、維持療法に通常6〜24か月が必要とされています。
- 6か月以内に規則正しい排便習慣が得られるのは約50%
- 約25%は思春期になっても薬物療法の継続が必要
- ESPGHAN/NASPGHANは「最低2か月は継続、症状がすべて消えて1か月以上経ってから、徐々に減らして中止」
- トイレトレーニングの発達段階にある子では、トレーニングが完了するまで薬をやめない
「出るようになったから、もういいかな」でやめてしまう。それが再発のいちばん多い入り口なんですね。長いと感じるかもしれませんが、伸びてしまった直腸が戻るには時間がかかる、という話でもあります。
安全性についても、片方だけ書くのはフェアではないので両方書きます。酸化マグネシウムについてはPMDAが高マグネシウム血症への注意喚起を出していて、腎機能が正常でも通常用量でも重篤例の報告があるとされています。一方で日本小児栄養消化器肝臓学会は、患者・家族向けに「特別な病気や原因がなく、正しい量を服用している小児では、危険なレベルの高マグネシウム血症がおこることは極めてまれ」と説明しています。
そのうえで、学会がはっきり書いているのはこの一文です。「自己判断で、薬を中断することはなさらないでください」。 量の自己増減も避けること。頭痛・吐き気、めまいや立ちくらみ、脈の低下、だるさや脱力、眠気やぼんやり感といった症状が出たら、医師に相談を。
なお、日本のガイドラインは2025年に改訂版が発行されているとされていて、記載や数値が更新されている可能性があります。ここに書いた内容も、最終的には主治医の説明が優先です。
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■ このサインがあったら、様子を見ないでください
夜中に検索する方がいちばん知りたいのは、たぶんここだと思います。
◎ 早めに受診したい「黄色信号」(エコチル調査千葉ユニットセンター)
- 硬い便ではなく、汁状のものが漏れる
- 排便のときに強い痛みを訴える
- 肛門から出血する
- 排便のときに足を交叉させてがまんする姿勢をとる
◎ 病気が隠れていないか確認が必要なサイン(国際・国内のガイドライン)
- 生後の胎便の排泄が遅れた(48時間を超えた)
- 裂肛がないのに便に血が混じる
- 体重が増えない、成長がよくない
- 強い腹部の張り、繰り返す嘔吐
- 発熱
- 肛門の位置の異常、肛門周囲の瘻孔
- 下肢の筋力・反射の低下、歩き方の異常
- リボン状の細い便
機能性便秘が約95%、器質的な病気は約5%で、そのなかで最も多いのはヒルシュスプルング病とされています。腸の動きを制御する神経節細胞が生まれつき無いために腸の動きが悪くなる病気で、胎便排泄の遅れや腹部の張りで発症します。診断は注腸造影・肛門内圧検査・直腸粘膜吸引生検などを組み合わせて行われるもので、家庭で見分けられるものではありません。
夜間や休日で判断に迷うときは、こども医療でんわ相談「#8000」という窓口があります。小児科の医師や看護師に電話で相談できる、こども家庭庁の事業です。ただし受付時間は都道府県によって異なりますので、お住まいの自治体の案内を確認して、元気なうちに電話帳へ入れておくのがおすすめです。緊急性が高いと感じるときは、#8000ではなく救急要請や救急外来を考えてください。
Photo: KATRIN BOLOVTSOVA / Pexels
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■ ひとことでまとめると
子どもの便秘で見るところは、飲んだ水の量ではありませんでした。
「痛みの記憶を減らせているか」と「毎日、座る時間があるか」。
水分は増やすのではなく普通にとる。食物繊維は大量にではなく、普通の食事に無理のない工夫を足す。足台を置いて、朝食のあと5〜10分だけ座る。叱らずに褒めて、記録をつける。薬は出たからといって自己判断でやめない。汁状のものが漏れる、強く痛がる、出血する、足を交叉させてがまんする — そのどれかがあれば、待たずに小児科へ。
最後にひとつだけ付け加えます。
この記事は一般的な情報の整理であって、診断や治療の指示ではありません。子どもの状態は月齢や持病でまったく変わりますし、目の前のわが子を見て判断できるのは診てくれる医師だけです。心配なときは自己判断せず、小児科を受診してください。
私がこの主題を調べていていちばん救われたのは、「便秘は、しつけの失敗ではない」という一行でした。怖がってトイレから逃げる姿を見ると、つい親のほうが責められている気持ちになるのですが、あの子が逃げているのは私たちからではなく、痛みからなんですから。