きみがこの手紙を読む頃、ぼくはもうこの世にはいない。だが、悲しむのはぼくの最期の言葉を聞いてからにしてほしい。
トスカナに行かせてほしいと、ぼくは君に言った。そのわけをきみはもう気づいているだろう。正直に言おう。ぼくはテレーゼに激しい恋心を抱いていた。きみの妻であり、帝国の女王たる彼女にだ。わたしはきみの臣下でありながら、親友とも思っているきみを密かに心の中で裏切り続けることに、疲れ果てた。テレーゼは帝国の神聖なるキリスト教を統べる立場から、きみを裏切ることは絶対にできない。ぼくたちは、きみという大切な存在を壊すことのできない重みで、同じ地獄へ落ちていた。愛するべきではない相手を愛してしまった背徳の日々に、胸の底では憎悪と恋慕がすさまじい音を立ててぶつかり合い、渦を巻いて自己嫌悪へとなだれ込む。同じ想いを抱きながらぼくを拒み続けるテレーゼを、蹂躙し、征服し、無理にでも従わせたいと思う気持ちが膨れ上がり、何度も夢にみた。だが、それは同時にきみを傷つけ、君との関係を壊すことに他ならないと考えると、自分がふたつに裂けてしまうような気がした。
しかしぼくは、聖シュテファン大聖堂でオイゲン公子から諭されて気づいた。
きみが、今は亡き皇帝陛下に、ぼくの前身を偽ってまで守ろうと進言してくれたこと。それはきみが僕自身を自分の運命と重ね合わせ、共に生きることを選んでくれた証だ。ぼくはきみのその苛烈な意思を知ったとき、自分自身に誓ったのだ。決してきみを裏切ることはしまいと。
だからぼくは一番過酷な闘いに己を差し出す決心をした。きみの耳には届いていないかもしれないが、戦線では決死隊を組んで敵軍に突っ込むよりほか、帝国が活路を見出すことはできないだろう。ぼくは今朝、その決死隊の先頭を切ることを上官であるオットーツォラン閣下に申し出た。十中八九が蜂の巣にされるだろうということだ。だが、ぼくの心は不思議と穏やかだ。もう、君の露草のような拘泥のない眼差しに背を向けることはないのだと思うと、むしょうにきみに会いたくなる。どうか、きみが仲睦まじく堅牢な家庭を気づき、その優しさで彼女を胸の中へ取り込み、二度とぼくのことなど思い出さないように、包み込んでしまってくれ。きみがぼくと運命を共にしたいと願ったように、ぼくもまたきみの生き方に重なり合っていたいと願っている。きみとテレーゼの幸せこそ、ぼくの望む未来であり、帝国の繁栄こそ、ぼくの野望であったからだ。
どうか、遠く離れた地で果てるぼくを憐れまないでほしい。きみの大切な妻を想い続けたぼくを赦してほしい。そして、ぼく亡きあとは、悲しみに囚われすぎないでほしい。ぼくの魂は、きみと出会った美しく豊かな地、ロートリンゲンに還るよ。いつかまたきみが故郷を訪れたとき、ぼくの魂はまたきみに出会うのだ。さよならは言わないよ。ぼくはきみと共にある。