モーツァルトが父や姉に宛てた手紙の一節に、かなしいのに惹かれる歌だといった意味のことを書いている。

おそらく旅の道中などの通りすがりに街の辻音楽師らの演奏や酒場から聞こえる流行りの歌だったと思われる。

システィーナ礼拝堂の秘曲ミゼレーレを聴いて耳コピで完コピできたという逸話もあるモーツァルトのことだから、そのくらいの曲なら楽勝だったにちがいないが、手紙にはわざわざ記してはいないし、自筆譜の余白や遺された紙片にも発見されていない。

もしかしたら作品の一部に使われていたりするかもしれない…などと期待したくなるエピソードではある。

そういう一例にバッハのゴールドベルク変奏曲が思い浮かぶからなおさらだ。当時の流行歌2つを第30変奏クオドリベトのモチーフに使っているのは対位法技巧を凝らした例として有名な話でもある。

晩年、バッハ研究を通じてひと皮むけたモーツァルトならそのくらいのことをやってのける芸当も持ち合わせていただろうが、それ以前にソナタの第1主題でも第2主題でもなく経過句のような、つい聞き流してしまいそうなところで、さりげなく使っているような気もしないでもない。

もちろん、モーツァルト研究者の著書や論文を探せば、例の歌がどの曲のどの部分に使われているか、とっくに調べがついているのかもしれない。

でも、それはちょっと面倒。頭の片隅に放置しておいて、モーツァルトが聴きたくなったときにでも探せばいい。

かなしいのに惹かれる曲

 

 

 

 

 

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