しばらく前から夕方になると、駅前にやってきてじっーと改札のほうを見ながら行儀よく座っている猫。いつしか忠猫ハチ子と呼ばれていたりする。たしかに飼い主を待っているようにも見えなくもない。
忠猫ハチ子では語呂が悪いのか、女子や小さい子たちはチューニャーとかチュニャとか呼んでいるのも耳にする。写真を撮ってバッチなどキャラクターグッズのようなアイテムを作ってスマホに貼ったり髪やカバンに付ける子も出てきた。
ただ、たまに改札を出てきた人のあとを、この猫がついていくことがある。数日後にはその人は亡くるという噂もある。だから、ハチ子のことを死神猫とか呼ぶ人もいる。
なるほど、ハチ公は主人が亡くなったあとでも駅前に通って帰りを待ち続けたのに対して、ハチ子は亡くなる人の帰りを待つというストーリーなわけか。
きょう、自分は初めてその猫が歩き出すのを見た。えっ、誰かのあとをついていくのか? たまたまエサの時間だったり、水場へ行くだけのことなのか? 歩くだけで、やけに胸騒ぎさせられる猫…。
帰宅途中の誰かさん、そのあとについていく猫、そのあとを追うオレ。
つまり、死期が近い誰かさん、死神、ただのオレ。この場合、オレは死神の付き人とか弟子みたいなものか? ただのオレがそんなたいそうな者なわけがない。そうだ、ちょうどいいのがある。都市伝説マニアとか…。いや、本物のマニアに叱られる。都市伝説ビギナーでいい。
例の「信じるも信じないも…」というセリフを思い出すが、この状況だと、オレ次第というより、尾行をこのまま続けるか止めるかの決断次第。
よし、止めよう。幸か不幸か、このタイミングでいちばん恐ろしいパターンが思い浮かんでしまった。
あの猫とその前を歩く誰かさんが、急に逆方向に歩き出したら?
実はあの誰かさんが死神の親分で、猫が死神なら、オレは?
となると、都市伝説ビギナーにもなれない?
そんなことになる前に、すぐここで止めて近くの店にでも入ろう…、あっ、ここってネコカフェだったり…?
あーっ、さっきの猫! さっきの誰かさんまで! なんでここに?
うわ~っ、ヤラレたぁ~! 客引きができるクレバーな猫と常連客だったわけか。そういえば猫の顔つきや体が置き物の招き猫にそっくりだ。
そして、客引き猫がついでに連れてきた常連候補のオレ、都市伝説ビギナーにもなれなかった。
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