休み時間、となりの席の広田さんが
「ピザ、ピザ、ピザって10回言って」と
話しかけてきたので、そのとおり言った。
そうしたら広田さんは
「じゃあ、これは?」と
わざわざ袖をまくって肘を指して聞いてきたので、
「ピッツァ」と答えた。
「なにそれ~、膝って言わなきゃでしょ!」
と怒った。
翌日、「はい、これ」と
広田さんが何か渡してくれた。
消しゴムくらいの大きさにした
食品サンプルのピザだった。
「これ何?」と聞いたら
「マルゲリータでしょ、たぶん」と答えたので、
自分にくれたのかはっきりしなかったが、
ペンケースに入れた。
その日の休み時間も「ピザって10回言って」と
広田さんが話しかけてきたので、言うとおりにした。
「じゃあ、これは?」と
裾をまくって膝を指した。
きわどいところまで出したので
ドキッとして「ピッツァ」と答えられず、
膝と言ってしまった。
「はい、ダメ~」と広田さん。
俺のペンケースからピザのサンプルを取りあげた。
「かわりにこれ、あげる」と
“コップのフチ子さん”みたいな
小さなフィギュアをくれた。
裾がかなり膝上になっていて、
顔が広田さんそっくりだった。
その数日後のホームルームで
広田さんが転校することを知った。
お父さんの仕事の関係でシカゴへ行くという。