「字が汚いでしょう」
たしかに、どちらかというと
そうだとは思う。
いや、もしかしたら、
「どちらかというと」レベルではなく、
ふつうより汚い、明らかに汚いと
この人は言いたいのかもしれない。
そうか、俺は字が汚いのか⋯。
しかしである。
キー入力で打った文字しか
見たことがないはずの相手から
そんなことを言われるのは心外だ。
この相手は
書道やペン習字の先生でもなさそうだし、
占い師でも、心理学に詳しい人でも、
いわゆるメンタリストや
プロファイラーでもないはず。
なぜケンカを売るような真似を
してきたのだろうか。
そういうことに興味があって、
趣味で勉強している可能性はある。
端末ごしの関係だけの相手を利用して
腕試しをしているとか。
あるいは、単に思い込みやイメージだけで
「おまえは○○だ」と決めつける
タイプとか。
実はストーカーで、
ウチのゴミ袋をあさったりして
手書きのメモなどを見たからとか。
そうか、もしコイツが
ストーカーで書道の上級者なら、
字が汚いと言われても仕方がない。
が、その手前の行為がヤバい。
通報事案だ。
そうでないことを祈って、
こっちから逆に仕掛けてみよう。
「おまえ、ヤバいヤツだろ」と
手書きの字をスキャンして
画像で送ってやったら、
どんなリアクションをするだろうか。
そんなことを考えながらも
やりとりを続けていたある日、
ソイツから顔写真が送られてきた。
オークランドにいる従姉だった。
夢オチの推理小説を読まされた感、
ぶっちゃけ、脱力感しかなかった。