裏山を越えたところにそこそこ大きな池がある。


冬になると氷が張り、スケートをしたり、カーリングをしたりできそうな感じの張り具合になる。


だが、それはあくまで見た目の話。


張り具合だけは見事だが薄い。


遠くから来た人などが、池を見るなり、駆け出し落ちて死亡するといった事故が毎年起きる。


注意を促す看板があるにはあるが、古びて見向きもされなくなっている。


毎年のように起こる不幸にもかかわらず、近隣の住民は事故防止に消極的だ。


おそらく、その理由は龍神信仰が根強く残っているためだと思われる。


この地域では明治の始め頃まで生け贄を捧げていたらしく、それができなくなってからは酒や肉で代用したが、飢饉や災害が多発した。


ある年の冬、この地に立ち寄った物好きな旅行者が氷に乗っていたら割れて落ち、死んだ。


その翌年、この一帯は豊作となり、家畜の出産などの吉事も多くなった。


そんな事情から、“来る者、拒まず”的に、池へ行く者止めず、落ちても知らずの不文律が出来上がったものと思われる。