あの芸人だったのか、と思わざるを得ない。
そう思って済ませるしかない。
黒ぶちの眼鏡だけが、宙に浮いて、すーっと進んでいく。
イリュージョニストがゲリラライブ的に芸を披露しているのだろうと思った。
だが、見えたのはそれだけだった。
イリュージョニストも見当たらず、ロケのスタッフも見つからない。
だったら、可能性はひとつ。たぶん…。
ずん飯尾が透明人間になったか、透明人間イリュージョンを完璧に習得して、ぶらりと街なかを歩いていた。
その周囲には誰もいないし、何らかの物体もない、
ただ、声は聞けた。
「飯尾さん、お疲れ~」と振ってみた。
「コッテリ カツカレー」の返し。
なにか違う。テレビの感じとは違う。
絶対気づかれないと思っていたから調子が狂ったのか。
声と口調は、たぶん彼のものだった。
もちろん、彼のモノマネが得意で、透明人間イリュージョンをもこなせる人間。ただ、お笑いは一般人レベルという可能性も出てきた。