知り合いの高野さんは低気圧のときに高血圧になり、その奥さんは低気圧になるという。


お二方とも、“なりがち”といった程度ではなく、明明白白だという。


では、高気圧のときは、どうなのか?


お聞きしたら、あまり気にしていなかったらしい。


血圧が異常に高いときに、奥さんのほうは異常に低かったことが続いたことがあり、はじめのうちは食べ物や心身のストレスを疑ってみたが、普段と変わったことが見つからない。


たまたま、天気の話が出て、もしかしたらと調べてみたら、どうやら気圧の高低と自分たちの血圧の高低との相関性が有意に高いことに気がついたという。


それでやっと私のところに相談に行こうと思ったらしい。


とはいえ、私は医師でも気象予報士でもないし、整体師や漢方医、気功術者でもない。

心理カウンセラーでも占い師でもない。


ただ、私は低気圧のときに低血圧になった時期も経験したことがあるし、高血圧になった時期も経験したことがある。それに、高気圧のときは血圧の異常はなかったことも確かめている。


相談されたが、大したことは言えない。


血圧の値にかかわらず、実際に体の異常が出たらお医者さんに診てもらってください、とだけ言った。


それから、数日後、夫妻の訃報がもたらされた。お子さんのことでケンカになり、お二方とも血圧が上がって脳溢血で亡くなったという。


どちらも温厚なお人柄で夫婦喧嘩なんかしたことがないと言っていたのに…。


そのとき、何かおかしい、と妙な疑念をいだいてしまったのがきっかけで、こんな稼業に足を踏み入れました。




……そういうことだったのか。


元川氏が私立探偵を始めたのは低気圧のせいだとよく言うのは、なにか内輪だけが分かる冗談かと思っていたが、やっとその意味がわかった。