ガチムスビとは、ガチガチに固く握ったおむすび、または固く結んだ紐やロープなどの結び目ように聞こえるが、そうではない。


近くの山にある岩場のことを昔からそう呼んでいる。


修験者が心身を鍛える場所でもあったらしい。

おそらくは太古の昔は、御神体のように崇められていたのだろう。それなりのガチ感がある。


いや、あった。


ガチムスビは大部分が崩落して、もとのガチ感を失ってしまった。


地震や大雨、突風があったわけではない。何らかの人為的な破壊行為も認められない。


周辺では、神様の示威だと口々に言われ始めた。なかにはコロナ禍と絡めて陰謀論めいた話を吹聴する者もいる。


立入禁止区域の手前にお供え物をしに行くと、すでにたくさんの御神酒や花が備えてあった。


あとから来たお年寄りが独り言のように言った、


ムスビ様ぁ、こんななったんは残念じゃが、これでおさまるじゃろ。お蔭様じゃな。