母校では“授与式”と呼んでいました。


卒業証書を授与する式典という意味では授与式でも卒業式でも別にかまわないのですが、なにかの表彰状や感謝状、大会やコンクールの優勝旗やカップ・賞状、英検や漢検、簿記などの検定の合格証書・認定証書を、該当者がもらう場合も授与式と呼んでいましたから、一年に何回も授与式がありました。


ついでに言うと、卒業証書の授与式は板伊賞(建学の祖、板伊先生を顕彰するとともにその精神を受け継ぐ若者を叱咤激励するというよくありがちな賞)の授与式も兼ねていて、むしろそっちのほうがメインイベントになっています。


もともとはふつうの成績優秀者への奨励賞的な性格のものだったらしいのですが、ある時期から選考基準が曖昧不明瞭で学長や側近らがかなり恣意的に決めているのではとの疑惑が浮上し、それからしばらく経ったある年の授与式で教職員や学生が壇上に殺到し、式が中断する事件が起きました。


学長一派は一掃され、その翌年は、再び成績優秀者への授与という通例のものになりましたが、学生らが壇上に殺到する事態になりました。が、じつはそれは新学長の一種のヤラセでした。


前年の騒動を忘れないよう自戒の念を込めて、少なくとも任期内は毎年行うことにしたということらしいです。


それが歴代の学長も継承していき、いまや伝統になってしまいました。


壇上に詰め寄る学生は演劇サークルが務めるようになってからは、笑いを誘うコント仕立てだったり大仰な悲劇風にしたり、毎年いろいろ趣向を凝らして見せるようになりました。


それを楽しみに、卒業生の父兄はもとより近隣の住民も見に来る名物になっています。


なので、関係者はますます“卒業式”ではなく“授与式”というイメージを抱いているわけです。


最近は若者ことばにちなんでなのか学生も教職員も自分たちのことを呼びあうときなどには、“同志”というのと同じような感覚で“イタい各位”という表現を使っているようです。