もう逃げられない。
奴らを十分引き付けてダイナマイトを腹に巻いて自爆するほかない。そんな思いが頭に浮かぶと、松永と名乗る人からメールが来た。

「せっかくですから、平蜘蛛を道連れにされるのはいかがでしょう」

何者かに心が読まれていようだ。“メダリスト醍醐”的な能力者なのだろうか。もはや気味わるがっている場合ではない。自爆を回避できるかどうかの瀬戸際だ。

また来た、お節介メールだ。
「道連れにせず叩き壊してしまいなされ。道が開けましょう」

なかなか大きなお世話だ、いっそ世話になろう。もちろん、ここには平蜘蛛などない。それに代わるものなら、あるにはある。平清盛愛用の品と伝えられている筆軸だ。祖父がまたその祖父から受け継いだ際に聞いただけで専門家の鑑定などは受けていない。
さまになるような代物はこれくらいしかないから仕方がない。思いきって折った。

が、折れない。腕力の問題だろう。
もう一度、折ってみた。二つにきれいに折れなかったが、ベリッと鈍い音を立てて曲がった。
中心になにかある。芯にする素材なのか、巻き紙のようだ。引き抜いて開いてみた。
なにか文字が書いている。
「コレヲアイテニムカッテナゲロ」

ほとんど同時にまたメールが来た。
「折れた筆ごと投げればいい」

松永と名乗るのも久秀だということを匂わせたいからだろうが、そうはいくか。折れた筆は投げても状況は変わらない。投げれば松永の思うつぼだ。

奴らに捕まるまえに、どうにか松永を引きずり出してやる。目星はついている。松永はおそらく奴らの中に紛れ込んでいるはずだ。その中で松永と名乗っている。そんなことをやらかすのは永野しかいない。

永野、オマエだろ!  そいつらに紛れ込んでいることくらい分かっている!

そう叫ぶと、向こうの角から永野が蹴り出された。殴られたのか気を失っているようだ。

コイツは永野でも松永でもない!
奴らのうちの一人が言った。

どういうことだ。
蹴り出されたのが永野でも松永でもないのは分かる。なぜ和田が、和田がどうしてこんな目に遭うんだ。

あ、まさか、和田が松永を演じていたのか?
そうだとしたら、いくつか不可解だったことが分かってくる。そうか、松永を演じる永野でもあったわけだ。だったら、もういい、かまやしねぇ。さっさと撤収するのみ。はい、サイナラ。