ほんのサプライズのはずだった…。
宗太郎の誕生日パーティーは大いに盛り上がるはずだった。あろうことか誕生日が命日になってしまった。
猛士は硯で墨をする手を止め、庭木越しの遠景をなす東山の山なみに目をやり、そのときのことを語り出した。
…最初は、サプライチェーンが回らなくなるようにシステムに細工をするだけでなく、上流に協力者をつくり、それとは分からないようにじっくり時間をかけてヤツを陥れようとしていた。あくまでも直接手を下さず、ヤツを自殺に追い込むか、第三者から言われのない怨恨を買って殺されるように仕組む計画だった。それが、藤治が余計な手出しを始めたせいで…。
バースデーパーティーを仕切ったのはこの計画とは無関係の泰充だった。先月、宗太郎が企画したイベントのラストで、泰充の名前がでかでかとデコレーションされたケーキを登場させたこともあり、泰充がパーティーの主催する流れになったようだ。「ついては宗太郎にもサプライズを仕掛けたい」と持ち掛けられて話に乗ってしまったのは、今から思えば誤算だった。泰充もいずれはこっちの計画に引き込むことを視野に入れていたからでもあったが、もっと慎重にタイミングを見計らうべきだった。
俺のほかに、泰充は藤治をサプライズチームに誘っていた。それが誤算の小さな綻びが大きな裂け目になっていく要因にもなった。
藤治が入るなら俺はやめる、となぜ言わなかったのだろう。藤治は社内で行われる過去のいくつものパーティーでサプライズを失敗させたり、支障をきたすようなことを仕出かすトラブルメーカーなのは周知の事実だった。それにめげず毎回サプライズに首を突っ込んでくる。もっと先に、宗太郎の計画を始める前に、藤治を潰しておくべきだった。潰しても、誰もが自業自得の仕儀とみて、その事件はすぐさま過去のものになるにだけで問題にはならない。
だが、こうなった以上は、藤治が妙なことをやらかさないように監視することを第一に、サプライズの準備を進める。なるほど泰充も藤治が自ら名乗りを上げてきたのを却下するのも煩わしく、監視役をつけるために俺に声を掛けたのだろう。泰充に貸しをつくるため、ここは彼の采配に従っておこう。
(9月号臨時増刊掲載分より)
宗太郎の誕生日パーティーは大いに盛り上がるはずだった。あろうことか誕生日が命日になってしまった。
猛士は硯で墨をする手を止め、庭木越しの遠景をなす東山の山なみに目をやり、そのときのことを語り出した。
…最初は、サプライチェーンが回らなくなるようにシステムに細工をするだけでなく、上流に協力者をつくり、それとは分からないようにじっくり時間をかけてヤツを陥れようとしていた。あくまでも直接手を下さず、ヤツを自殺に追い込むか、第三者から言われのない怨恨を買って殺されるように仕組む計画だった。それが、藤治が余計な手出しを始めたせいで…。
バースデーパーティーを仕切ったのはこの計画とは無関係の泰充だった。先月、宗太郎が企画したイベントのラストで、泰充の名前がでかでかとデコレーションされたケーキを登場させたこともあり、泰充がパーティーの主催する流れになったようだ。「ついては宗太郎にもサプライズを仕掛けたい」と持ち掛けられて話に乗ってしまったのは、今から思えば誤算だった。泰充もいずれはこっちの計画に引き込むことを視野に入れていたからでもあったが、もっと慎重にタイミングを見計らうべきだった。
俺のほかに、泰充は藤治をサプライズチームに誘っていた。それが誤算の小さな綻びが大きな裂け目になっていく要因にもなった。
藤治が入るなら俺はやめる、となぜ言わなかったのだろう。藤治は社内で行われる過去のいくつものパーティーでサプライズを失敗させたり、支障をきたすようなことを仕出かすトラブルメーカーなのは周知の事実だった。それにめげず毎回サプライズに首を突っ込んでくる。もっと先に、宗太郎の計画を始める前に、藤治を潰しておくべきだった。潰しても、誰もが自業自得の仕儀とみて、その事件はすぐさま過去のものになるにだけで問題にはならない。
だが、こうなった以上は、藤治が妙なことをやらかさないように監視することを第一に、サプライズの準備を進める。なるほど泰充も藤治が自ら名乗りを上げてきたのを却下するのも煩わしく、監視役をつけるために俺に声を掛けたのだろう。泰充に貸しをつくるため、ここは彼の采配に従っておこう。
(9月号臨時増刊掲載分より)