某倶楽部の某ホールとしか言えないが、そのホールで1ストローク縮めてイーブンパーで上がると、その後はやたら調子がよくなり、上位10以内なら優勝争いに絡めたり、打差にもよるが最下位からでも上位に食い込めたりする。
そういう現象がプロの間で囁かれはじめ、いつしか「極楽イーブンパー」と呼ばれる都市伝説になっているという。

その噂を聞いてから半年ほどあと、顔見知りのゴルフ場関係者からそれにまつわる話を聞かされた。一般人でもその倶楽部に出入りができ、ハンデ5以下の者なら、そういう幸運に恵まれることもあるという。
この手の話によくありがちな、尾ひれがついて膨らませた話だと思っていると、「Nさんも、先月だったか、いっしょに回っていらした○○の会長さんが優勝したとき、あれがそうだと思いますよ」と身近なところを攻めきた。
「えっ、あの話ってここのことだったの!?」
「お静かに。他言無用ですからね」

あの会長はもともと実力者でコンペで優勝するのは珍しくないが、あのときはまったくいつも調子が出ず、私を含め周りの人は内心ハラハラしていた。
底力でどうにかパーにまでこぎつけてからが破竹の勢いでナイスショットの連発だった。ただそれは本人が調子を取り戻しただけのことと、みんなホッとしてやっと自分のプレーに集中できるようになった。

優勝してすっかり上機嫌の会長、「おいおい、私ばっかり優勝させないでくれよ。実力を出し切るのも接待だよ」と打ち上げの乾杯の音頭をとった。

自分もあと少しでハンデ5、会長にお供すればここでプレーできる、あのホールでパーを狙える。