やってしまった…。

オヤジのお宝コレクションでいちばん高いという日本画に手をつけてしまった。
むしょうにそうせずにはいられなくなった。何かに取り憑かれていたのかもしれない。

最初は高画質で写真を撮り、高精細でプリントアウトしたものに、極太マジックで輪郭を書き込んで済ませるつもりだった。
だが、かえってそれが呼び水になり、現物に手が伸びてしまった。

「そういうこともあろうと、複製のほうを掛けておいた」とオヤジがいった。
「なあんだ~、ビビって損した~」とヘラヘラすると、「複製でも50万、それは払え」といいながら顔面に鉄拳をぶち込まれた。
「それも払えないだろうから、おまえの意識と顔の輪郭を朦朧にしてやる」
言い終わらないうちに二発目が飛んできた。
キーンという音が鳴り響き、気づいたら病院のベッド。

こういうのはもう小さい頃から、さんざんやられてきたから慣れている。

物心つくかつかない頃から殴られては病院、退院したらすぐまた殴られては病院へ…のパターンをヘビロテ、死ぬまでエンドレス。

いまどきのご時世なら少しはご近所が気にかけるようになったり、病院が児相や警察に通報してくれることもごくごくたまにあるとか、マシになったみたいだけれど、やられるほうからすれば大差ない。
いつも死ぬか、どうにか生き長らえるかの瀬戸際に立たされている。たとえ生き長らえたところで、虐待親は自分の"子"を、あろうことか"親"の仇のように何度でも何度でも飽きたらず酷たらしい目に遭わせる。
病院で知り合った子たちの何人かは、死んだほうがマシと、児相から家に戻される前に自殺した。