主人公の女性、樫井カシスが大学生になる頃から30代までの日常を描きながら、世の中にはびこる妙な因習を丁寧に浮き彫りにしていく筆致。
そういう作品のコアには触れず、個人的に気になったところをつれづれに…。

蛙の鳴き声で鳴く野良猫に樫井カシスが語りかけるシーンがときおり挿入される構成だと思っていると、序盤から中盤にかけ、かなり長きにわたって語りかける場面がドカーンと置かれる。
はじめは当然、カシスの独白なのだが、いつの間にか野良猫の語り口に変わっている。野良猫の鳴き声がなぜ蛙の鳴き声になったのか、なぜもとは飼い猫だったのに野良猫になったのかなど、この猫にまつわる話が長々と語られる。
聞き終わったカシスは野良猫のことを、それ以降、夏目ソーダと呼ぶようになる。
一週間ほどカシスの部屋をねぐらにするが、ある日を境に姿を見せなくなる。
数日後、犬がカシスの前に現れ、何かもの言いたげな表情を見せる。ソーダが飼い猫だったときに一緒に飼われていた犬だとすぐに悟る。頭を撫でてやるとお座りをし、とりあえず、ソーダに食べさせようと買ったキャットフードの缶詰を開けてやるカシス。その様子を見ながら自分は箱買いしてある栄養ドリンクのキャップをひねる。

なるほど、それでか。

それはそれとして、犬はキャットフードも食うのか? 犬には名前を付けないのか? どうせなら夏目捜索とかにしてくれ…。
期待を裏切り、カシスはワンコとしか呼ばない。
一方で、推測上の飼い主のことを1Kビルと呼びはじめている(1Kビル=千円札)。そっちからきて、ワンちゃんとワンコインでワンコなわけか。

こういう遊びもたしかに多いが、本旨は最初に挙げたようなこと、それなりに読み応えあった。