羽鳥ひな子が入学した当初、生物部の主流派は部室をネコカフェ状態にしてしまい、昼休みと放課後にマッタリするだけの部と化していた。

羽鳥ひな子は、生徒会の部活動監察委員だったが、可愛らしい小鳥をイメージさせる名前のせいで、小鳥・野鳥愛好派に担ぎ上げられ、生徒会の急進派からの支援も得て部長に就任した。

このとき、生徒会急進派がいっしょに10名入部し、鳥類派とともに主流派を形成し、もとの主流派部員に退部勧告を発動し、ひと月以内で一掃した。

だが、羽鳥ひな子自身はといえば無類の爬虫類好き。小鳥や野鳥と聞けば、餌を連想する。実際、イキのいい餌を愛しい爬虫類に与えるために、わざわざ小鳥を繁殖させるスペースも自宅に設けている。そのため、鳥類の生態にも愛好家並みに詳しい。

生物部を実質的に爬虫類部とするにしても餌となる小鳥も飼育できる環境を整えたい。なので鳥類派は手駒にしておきたいが、餌のためとは言えない。

いずれは小鳥・野鳥愛好派をも生徒会急進派の力を利用して退部に追い込み、生物部を完全に乗っ取ってしまう計画だ。

やがて派閥闘争は収束し、独裁体制を確立する運びになるものと思われた。

が、派閥闘争は意外な局面を迎える。

実質は爬虫類部だと知って新たに入部してきた者には恐竜・古生物マニアが相当数いた。
ネコカフェと化していた生物部には入りたいとは思わなかったが、爬虫類部と化した生物部ならば、入部したいという者が少なからずいた。古生物部を新設するより、生物部に入って主流派を成し、主導権を掌握すればいい。

もちろん羽鳥ひな子は、その動きを早くも察知していた。
爬虫類と恐竜、おたがいに非常に親近感を抱いてはいるが、生モノと情報という決定的な違いがあった。文献だけでないにしてもせいぜい化石か復元模型をいじる程度。生き物に触れもしない輩が目につく。海や川に行かず、釣り堀にさえ行かずに魚拓だけを愛でる釣りサークルみたいなもの。まだしも鳥類派のほうが利用価値はある。役立たずのうえ、抵抗勢力になりかねない古生物派は排除しなければならない。
飼育当番をヘビーローテーションで割り当てたり、夏合宿は沖縄でハブ退治のボランティアに強制参加させ、アゴを180度以上開き毒牙を剥き出しにして飛びかかってくるハブの洗礼を受けさせるなど、穏便なやり方もあるにはある。
だが羽鳥ひな子の念頭には、ヘビ使いとしての本領を発揮するやり方が浮かんでいた。