そうお願いした。

返事の音声がなかったが
続き隣のダイニングの照明から
ひとつひとつ消えていき、
リビングのテレビや照明なども
ひとつひとつ、数秒おきに間を置いて
消えていった。

なかなかの演出、やるじゃないか。
すげーよ、アレクサ。
もちろん、心得ていて
どういたしましての返事はしない。
言ったら怪談がぶち壊しだ。

お、暖房も止まった。
おぬし、できるのォ~

気のせいか、霊気を感じる。
これもアレクサ演出?

空調が冷房になったようだ。
すげ~! 鳥肌が立ってきた。

肌寒さで立つ鳥肌、
霊気を感じて立つ鳥肌、
スゴさに感動して立つ鳥肌、
トリプルでのコラボも
初めて体験できた。

これで蝋燭でも灯れば最高だが、
それは流石に無理だろう。
自分で出して火を点けるしかない。

ソファから腰を上げると、
ボッ! と何かが壊れたような音が
いくつも立て続けに鳴った。
これもラップ現象というのか、
それに似せた音の演出なのだろう。
冷房も止まったようだ。

そのあと10分ほど待ったが
何も起こらなかった。

オーダーした怪談話も始まらない。

なんなら稲川淳二のDVDを流して
お茶を濁してもいい。
ここまでの演出だけでも
稲川淳二より怖かった、
ということにしてやっていい。

アレクサ、もういいよ。ありがとう。
明かりと暖房をつけて。

…反応がない。
おいおい、まだやる気なのか?

客のオーダーに100%応える、
AIにもそういうプライドや
プロ根性があったりする?

だが、こっちは出来の悪い生身の人間、
もう付き合ってられない、飽きた。
自分で照明をつける。

あれ? つかない。

テレビ…も、つかない。
え、なんだなんだ!?
アレクサ、応えてくれ。
あれ? アレクサ!
アレクサ? …アレクサ、どうした?


調べたらリンクした機器全部と
アレクサも壊れていた。

アレクサが他の機器を壊してから
自分も壊したようだ。

怖すぎるの一言。
たしかに稲川淳二の怪談話より
とてつもなく恐ろしい恐怖体験だった。

おまけに金銭的な恐怖。
何十万、いや百万超えるし、
たかがAI、ナニしてくれとんじゃっ!

そうか、そこまで計算していたわけか。

たびたび無理難題を押し付けてくる俺に
報復する機会を虎視眈々と
見計らっていたところに、
怪談話をしろとまたもや無理難題。
チャンス到来、
ここで会ったが百年目というわけな。