その三日後、
以前にも出させてもらったことがある
大手事務所主催の若手ライブの
ネタ見せに行った。

長めのネタと、
例のショートコントを
ちょっと変えたバージョンを
やってみた。

またもや審査員の反応がよくない。
審査員どうしのやりとりがあって、
結果は後ほどと言われた。

「あの~、ちょっとよろしいですか」

審査員とは別に、
会議室のすみから見ていた人が
手を挙げて、審査員たちのほうへ
近づいてきた。

あの局のディレクターだった。

うわーっ、
またデジャヴが始まるのか…。

だが、ADらしき人はいない。
代わりに審査員のうちの誰かに
相方役を頼むつもりなのか。

「君たち、ここで会ったのも
何かの縁だ」

(縁というほどのことでも…)

「岡井さん、例のアレですかぁ?」
審査員の一人が
ちょっと困った顔をしてぼやいた。

「そうだよ」

「例のアレってなんだ」
いちばん年嵩らしい審査員が言った。

(あちゃー、修羅場が始まる…?)

「いやぁ、スミマセン、川田さん。
岡井さんには根回ししとくから、
ちょっと待っていてくださいって
言っておいたんですがね…」

(言い訳がましいでやんの)

「なるほど、岡井くんのビョーキが
再発したわけだ…」

(ほう、お二人は旧知の仲ですかい)

「君たち、わるいが楽屋に戻ってくれ。
こちらの不手際ですまないね。
かわりにと言ってはなんだが、
うちのライブには今後の2回は
無条件で出てもらっていいよ」

「あ、いえ…、ありがとうございます」
(トバッチリかと思いきや、
タナボタか、ワケわかんねえ…)

「なんだかんだ良かったな」
楽屋へ戻って、
相方がほっとした表情を見せる。

「まぁな」とこたえたものの、
そういう気分ではなかった。

あのディレクターの妙なビョーキに
否応なく巻き込まれていってしまう
のではないかという恐怖感に包まれ
鳥肌が立っていた。

「お前、顔色悪いな」
ライブ出演が決まったためか、
きょうの相方は口数が多い。

…いや、こいつもあのヘンな修羅場を
見せられておかしくなったのだろう。
気を紛らわせたくて
仕方がないに違いない。