イチョウ並木に設置されたベンチ、
そのひとつひとつに置かれた遺体。
みなペパーミントグリーンの
防護服を着用したままだった。
鮮やかなグリーンに
黄色いイチョウの葉が落ちる。
ドウシテコンナコトニナッタノカ。
イチョウの葉が風に飛ばされる。
そしてまた、葉が落ちる。
まだ時節は初夏、
なぜ葉が一斉に黄金色になったのか。
国を挙げての祝祭を幾度も
見守ってきたイチョウ並木。
ペパーミントの生贄に
金の鏝刃を突き立てる。
防護服が裂け、赤い肉塊が外気に触れる。
赤がみるみるうちに黒に変わる。
すぐわきを家族連れや若者たちが
ソフトクリームや風船を手にしながら、
あるいは、犬を散歩に連れ出し、
引っ張ったり引っ張られたりしながら、
通りすぎていく。
誰ひとり言葉を口にすることもなく、
みな無表情で通りすぎていく。
犬さえ吠えることも唸ることもなく、
舌を出して息の音を立てない。
どうしてここは秋のようで
初夏のようでもあるのか。
この年以来、この国のイチョウの実は
枝豆のような緑色になった。
殻を剥いた中も枝豆のような緑に。
それでようやく
あの日の取り違えに気がついた。
ペパーミントグリーンなどではなかったのだ。
防護服のグリーンは、
いわばエダマメグリーンだったのだ。
ギンナンの殻と中の実、
そして、エダマメの鞘と中の豆。
ならば、防護服という鞘の中身も
もとは緑色だったのか…。
緑、グリーンなるものは総じて
生贄の徴表だとでもいうのか。
ペパーミントグリーンと
エダマメグリーンは、
たしかにスベクトルの近傍だ。
だからなんなんだ。
……あ、そういうことか。
とんでもない見落とし、
いや、とんでもないことを
ずっと見過ごしてきた、
見過ごしてきてしまった。
もはや、イチョウ並木のことにも、
緑色のことにも、
いっさい口を噤まざるをえない。
そのひとつひとつに置かれた遺体。
みなペパーミントグリーンの
防護服を着用したままだった。
鮮やかなグリーンに
黄色いイチョウの葉が落ちる。
ドウシテコンナコトニナッタノカ。
イチョウの葉が風に飛ばされる。
そしてまた、葉が落ちる。
まだ時節は初夏、
なぜ葉が一斉に黄金色になったのか。
国を挙げての祝祭を幾度も
見守ってきたイチョウ並木。
ペパーミントの生贄に
金の鏝刃を突き立てる。
防護服が裂け、赤い肉塊が外気に触れる。
赤がみるみるうちに黒に変わる。
すぐわきを家族連れや若者たちが
ソフトクリームや風船を手にしながら、
あるいは、犬を散歩に連れ出し、
引っ張ったり引っ張られたりしながら、
通りすぎていく。
誰ひとり言葉を口にすることもなく、
みな無表情で通りすぎていく。
犬さえ吠えることも唸ることもなく、
舌を出して息の音を立てない。
どうしてここは秋のようで
初夏のようでもあるのか。
この年以来、この国のイチョウの実は
枝豆のような緑色になった。
殻を剥いた中も枝豆のような緑に。
それでようやく
あの日の取り違えに気がついた。
ペパーミントグリーンなどではなかったのだ。
防護服のグリーンは、
いわばエダマメグリーンだったのだ。
ギンナンの殻と中の実、
そして、エダマメの鞘と中の豆。
ならば、防護服という鞘の中身も
もとは緑色だったのか…。
緑、グリーンなるものは総じて
生贄の徴表だとでもいうのか。
ペパーミントグリーンと
エダマメグリーンは、
たしかにスベクトルの近傍だ。
だからなんなんだ。
……あ、そういうことか。
とんでもない見落とし、
いや、とんでもないことを
ずっと見過ごしてきた、
見過ごしてきてしまった。
もはや、イチョウ並木のことにも、
緑色のことにも、
いっさい口を噤まざるをえない。