ぼくの小犬は
小さいけれど
子犬ではありません。
もうおじいさんなんです。

おじいさんでも
離れたところにあるものを
とってきてくれたり、
寒そうにしていれば毛布を、
暑そうにしているとタオルを
もってきてくれたりします。

ぼくが赤ちゃんのときには
もういたから
小さいときはお兄ちゃんだと
思っていました。

でも、ほんとうのお兄ちゃんは
ぼくが生まれるまえに
死んじゃったんだって。

毎年行くお墓参りには
ぼくの好きなケーキとおもちゃを
もって行きます。

この、お兄ちゃんみたいな
おじいさんの犬が
車にはねられそうになっていたのを
ほんとうのお兄ちゃんが助けたんだって
いつか親戚のおばさんが
こっそりおしえてくれました。

だからかな、おじいさんの犬は
どうしてもお兄ちゃん、っていう
気がしています。
ひとりっこでも
兄弟ゲンカみたいなことを
してみたいから、
ちょっと乱暴にぶったり、
つねったり、けったり…
したくなります。

でも、ごめんね。
おじいさんなんだよね。
ごめんなさい。
そして、ありがとう。
いたかったり、つらかったり大変なのに
いつも遊んでくれてありがとう。

そういうとき、
おかあさんがよく怒っていた。
もうすぐお星さまになるんだからって
ぼくをちゃんと怒ってくれた。

…もしもお星さまになったら、
ほんとうのお兄ちゃんのお星さまに
ぼくのことをたくさんお話しておいてね。

だって、ぼくがずっとあとに、
もしかしたらちょっとだけあとかな…、
お星さまになっても
あとから生まれたぼくのことなんか
お兄ちゃんはわからないでしょ。

ふたりを知っているこの犬が
引き合わせてくれるからだいじょうぶ?

ちがう、ちがうよね。

おじいさんの犬はね、
そのくらいのときにはもう…、
お星さまの世界にはいないんだよ。

こっちの世界に生まれ変わって
ちゃんと人間になっているんだ、
きっとりっぱな人間に。

お兄ちゃんがやりたかったこと、
叶えたかった願い、
みんな叶えられるりっぱな人間に
なっています、きっと…。