あるところに
やたら長生きした男がおったそうな。

近隣の村々でも、風の噂でも
聞いたことのないほどの
長寿だったそうな。

その男が亡くなってからも
しばらく村人たちの
他愛ない語りぐさになっていたそうな。

やがて、川に河童が出たという話や
鬼が山を動かした話などとともに
村の言い伝えの一つになり、
ときとともに近隣の村々にも伝わり、
さらには諸国の津々浦々へと
広まっていったそうな。

その間、話に尾ひれが好き勝手に
どんどん付いていったのは
言うまでもない。

やれ、釣りが好きだっただの、
これはまだいい。
…いや、釣りより女好きだっただの、
…でも、気は優しくて
浜で子どもたちに玩弄されていた
ウミガメを助けて無事に産卵を
済ませてやっただの、
…なぜか身分不相応な箱を肌身離さず
持っていただの……。

子どもに話して聞かせるときなどは、
おとぎ話テイストが
ふんだんにトッピングされ、
擬人化されたカメがお礼をする
などというお約束エピソードも
付け加えられていったそうな。

伝わる土地土地に応じて
地方色も豊かになり、
漁に出て嵐に遭って
琉球に漂着した人の話とも
融合したりしたそうな。

……というように、
ただ単に男が長生きしただけの話が
それなりにまとまったお話へと
雑多なエピソードどうしの
つじつまもうまく合うように工夫して
仕上げられていったそうな。

もちろん男の名前も話す際の便宜上、
話し手の気分や好みでいろいろ付く。
下総の国の、武蔵の国にほど近い
埋め立て地に伝わる話の場合だと、
浦安幹太郎という名だそうな。

… … … … … … … …
きのう、101歳を迎えた曾祖父が
お祝い会の挨拶に代えて
聞かせてくれたお話。

最後の最後に、
「無駄に長生きをすると
死んだあとから頼みもしないのに
こんなふうにろくでもない話を
でっち上げられてしまうから、
諸君らは長生きせんよう
くれぐれも気をつけ給え」と
ありがたいお言葉を頂戴した。