シリコンバレーの話から始めよう。

ここの経営陣から労働者まで、
ハチマキとタスキを渡すと、
タスキのほうを頭に巻き、
ハチマキを腕に巻く。

ヘンだから、キレ気味に指摘すると、
向こうはマジギレして
「逆なのは百も承知だよ、
これがここのやり方なんだ」
流暢な日本語で言い返してきた。

シリコンバレーで働く日本人を訪ね、
同じくハチマキとタスキを渡した。
「懐かしいですね」
ふたつの布切れを手にして
彼は目を細めた。

学生時代に駅伝でもやっていたのか
と訊くと否定した。

「こっちに来たばかりのことを
思い出したんですよ」

私は少しばかり大げさに
意外だという顔をしてみせた。

「あなたも見たんじゃないですか、
彼らが逆に使うのを」

大きくうなずく。

「あのときの私と同じですよ」

長いタスキを頭に巻くならば、
ネクタイもそうするのだろうか。
いや、これは日本人の
酔っ払いのカリカチュア。
そもそも舶来品のネクタイ、
欧米人は首に巻く以外なさそうだ。
酔った日本人が
ネクタイを頭に巻くのを見たら、
さぞ奇異に思うに違いない。

いや待てよ。
ここの人たちがタスキを何の疑問もなく
頭に巻くということは、
シラフでもネクタイを頭に巻くことも
あるということになりはしないか。

彼は吹き出した。
「それはおもしろい。
実際にやってみたらどうです」
背中を押してくれた。

そう、やってみるしかない。