体育座り

うちの学校では、
いわゆる体育座りがなかった。

教室で着席して受ける
保健体育の授業はもちろん、
グラウンドや体育館、プールでの
実技の時間でも
椅子に座るか立っているかで、
それ以外は動いているか。

講堂での式典や催事でも
起立したままか椅子に着席。

では、いわゆる体育座りのことを
この学校では何と呼んだか。

もちろん、世間一般に体育座りで
通っているので、
体育座りと呼んでも構わない。
当校は当校、世間は世間と
割り切ればいい。

ところが、
それが出来ないアホが二人いた。

一人目は、数学教師の山崎(仮名)。
彼は「屈伸抱え込み座り」と
体操競技の技のような呼び方をはじめた。
それが体育教師の蝶野(仮名)の
逆鱗に触れた。
蝶野は蝶野で体育座りのことを
「他校座り」と呼んでいたのだった。

二学期の終業式の日、
山崎は蝶野に体育館裏に呼び出され、
さんざんシバかれた挙げ句、
授業に使うデカい三角定規や分度器、
コンパスなどをカラダに
ガチガチに括りつけられ、
原始的なトランスフォーマーと化した。

そのまますぐ、
バスケットボールやバレーボールを
片づけるときに入れる車輪つきのカゴに
押し込められた山崎は、
校内を三周連れ回されたあと、
朝礼台の上に乗せられ衆目に晒された。
現代版、市中引き回しのうえ晒し首。

その後、
体育座りのことを誰からともなく、
コンパス座りと呼ぶようになったが、
これについては蝶野も黙認していた。

翌年度、山崎は他校へ転任し、
蝶野は教頭に就任。
全校生徒は山ロスになった。

僕たち私たちは、
いつか再び、体育座りのことを
「屈伸抱え込み座り」などと呼びそうな
アホ教師が赴任してくることを
ひそかに待望するとともに、
蝶野の過剰反応に期待を膨らませつつ、
勉学に励む日々を送っています。