道端にアンチョビが落ちていた


なぜだ…


なぜこんなに!


目を疑った


二度見どころか三度見、四度見


さらに目を何回もこすってしばたいてみた


仁王像や金剛力士像のように見開いた


あれ?


ちょっとおかしい、なにかおかしい


ぼやけている、そうかそういうことか


急遽、眼科に行って視力検査


とりあえずコンタクトを入れてもらう


すぐに戻ってもう一度見直す


やはりそうだ


理想形のアンチョビだ


まさかこんなところで見つかるとは!


これにたどり着くまで缶詰をいくつ開けたことか!


アンチョビパスタを何皿平らげたことか!

それに飽きたらず現地に乗り込み、缶詰工場ごといくつも買い取ったことか!


……いや、そういうことではない


そういうまわり道こそがこの道端に連れてきてくれたのだろう


……いや、これもちがう、そんなもっともらしくありきたりのフレーズにはまってはいない


だが、いくぶん近い


ほかに言いようもない


ただ、自己欺瞞と自己満足がない交ぜになった、取り繕ったよそ行きの格好でしかない


……ま、とにかく理想形は道端に落ちていた


踏みつぶして帰ろう



(次回は、道端に死んでいたカラス)