…懐柔策は、あるにはある。

長い沈黙のあと、タラスが切りだした。

しかし…

強硬派のヴァタール・ルビコーニがすかさず潰しにかかるにちがいない。かつては盟友で、タラスがハト派の粛清に着手するや、あっという間に壊滅させたとき、その功績を高みの見物を決め込んでいたヴァタールに差し出した。その直後、タラスは強硬派を離脱し、みずから新たに統制派を立ち上げ、強硬派の脅やかす存在となった。ヴァタールはいわば置き去りにされた木偶の坊にされてしまったのだ。

その懐柔策とやら、ほんとうに事を丸く収められるんですかねぇ。

ヴァタールにしては妙に取り澄ました発言だった。

おっしゃる通り、詳細は言えないがその懸念はある。

タラスも揶揄を冷静に受け流す。真の狙いは、懐柔策を隠れ蓑に或る計画を実行することにある。

タラスが強硬派を辞め、統制派を設立したのは半年前のことだった。
……めずらしく首都に積雪があった日、タラスは強硬派総帥の前任者イソス・アクチヌムとの面会にあの場所へ赴いた。

もうここへ来るな。最後の指示は、私の処刑後お前に伝わるようにしてある。

ですが…。

わかっておる、ヴァタールの件は脅威だが、切り札がある。

タラスを騙すほかなかった。切り札などない。自身の処刑後の算段はつけたが最後の決め手を用意できなかった。

切り札、ですか…。

生きているうちには教えられん。…そうじゃな、ヴァタールを追い詰めたときにでも雲の上から教えてやろう、はははは…。達者でな。

は、では…。

タラスはいったん立ち上がったが座り直した。

…あの、ひとつよろしいですか。私の墓、隣につくらせてもらいたいのですが…。

この件がうまくいったら好きにせい。

ありがとうございます。