ウチ、鮮魚店をやっています。

除染しようにもこれは無理ですわ。




いえ、ガキがですね、まだ幼稚園上がる前ですが、ちょっと目を離した隙に店先でどこから引っ張り出したのかシナモンの袋をぶちまけやがったんですよ。

シナモンの掛かった品物はすぐ洗い流したから、品質に影響ないんだけれど、商店街を通る大勢の人に見られていたわけ。
そいつまでは除染しようにもできませんわ。

「訳あり品につき緊急値下げ」なんていうシャレた札をこさえても…なんて手をこまねいているところに、商店会長が来てくれたんです。地獄に仏とはこのこった。

「駿河屋さんが電話してくれたんだよ、あんたんとこが大変だって」
その駿河屋の連中も向かいから出てきてくれました。
会長が先頭を切って、おおっぴらにサクラを演じはじめた。駿河屋さんも近くの店のダンナ連中も共演。学芸会な演技だけど、いい雰囲気です。ありがたい。
通行中のお客さんも、あからさまなサクラぶりに笑い声をあげ、中には寄ってきてサクラを共演してくれる陽気なご婦人もいらっしゃいました。
あとは堰を切ったようにお客さんにお買い求めいただきました。
おかげさまで年末セール並みの売り上げになりました。

お客様、商店街の皆様、なにより会長と駿河屋さん、ありがとうございました。

『平成24年度 重大汚染事故 調査報告書』より聞き取り調査補足メモ【平成24年4月8日中野富士地獄8丁目商店街におけるシナモン汚染事件】