あ、先生、こんなところに穴があいていますね。
レポーターが打ち合わせどおりのセリフを言った。
そうですね。でも、ここはまだ例の穴ではないんですよ。
そうですか。ただこの穴もなかなかのものですよね、なにか関係がありそうですが。
ええ、おっしゃるとおり。例の穴の試し掘りなんですよ。
あ、そうなんですか。
ですから注意してください。見えづらいところに穴が開いていることもありますから。過去に落ちて亡くなった方が6人いらっしゃいます。
ええっ! 聞いてないですよぉ、先生、そんなこと~っ!
そうでしょうね。打ち合わせで誰にもお話していませんから。
ダメじゃないですか、そんな大事なこと~っ!
そうでしょうかね? ちっともダメではありませんよ。大事なことは大事なことですけれど。

いや~、ダメですよぉ、ほんとに~。
カメラマン兼ディレクターが泣きそうな顔でカメラを下ろし、その場にへたれ込んだ。
しばらく頭を抱え込んでいたが、携帯を取り出した。会社に連絡をとるつもりらしい。2-3回、耳から携帯を放し、見ては首をかしげ、かけ直している。

かかりませんよ、この辺りは。トランシーバーじゃないと。持ってきたんじゃないんですか?
あ…、いいえ…。
持ってくるように行っておきましたよね。連絡をとる必要があるなら必ずトランシーバーを持参するようにと。ちょっと別の話をした後にも念を押しましたよね。
…は、はい。
えー、なにやってるんですかぁ、野上サ~ン…。
レポーターがキレかかってはいるが、まだ冷静なようだ。