追跡12.7

なぜ小沢は取り調べ担当に回される指示に不満ひとつ漏らさなかったのか。
取調室に入ってすぐ、小沢の第一声で疑問は氷解した。
お前、なんであっさり車を止めた? ほとぼりが冷めるまで待って、逃げ切るつもりだったんだろうが。
椅子に座らず、容疑者の脇に立って威圧する小沢。
あ…、あのときのあんたか…。事故って顔がグチャグチャになった自分がフロントガラスに映って…。
まるで芝居の台詞、笑いが顔に出るのをこらえた。下手な芝居を打ってまで憐れみを請おうというのか。
だが、小沢は獲物を前にしたネコ科の目、容疑者は深い淵に沈んだような表情のままだった。
そうか、それでいい。
小沢はふぅと息を吐き、体の力を抜いて椅子に座った。